2012-02-29
長沢樹「消失グラデーション」
昨年の横溝正史ミステリ大賞受賞作。
高校を舞台にした青春ミステリですが、個人的にはどうもこの手のものはあまり得意ではない。
で、どんなもんかとおそるおそる取り掛かったんだが、確かにキャラクター設定はまるで少女漫画のようではあるけれど、内面の書き込みである程度のリアリティは確保されており、読み進めるにつれて馴染んでいくことができました。
探偵役は学校の生徒であって、警察には無断で動いているがゆえ客観的な捜査情報は断片的にしか与えられず、読者にとっては事件の全体像は見えにくい。こういうのってトラップのパターンなんだよなー。
ミステリとしての興味は学校内からの人間消失ということになりますが、実際のところそれは、がっちり検討してしまうと何となくの見当はついてしまうかも。
探偵役たちは消えた人物の周囲との関係を洗い出すことで、隠されていた問題を浮かび上がらせていく。
うまく書かれているとは思うけれど正直、既視感ある要素ばかりで構成された物語。それがラスト50ページぐらいの時点から全く意外な相貌を見せ始める。ありがちな小説、と見えていたものがとんでもなく変なものであったことが判るのだ。散りばめられた大胆な伏線には違和感を感じてはいたのだけれど、なるほど、これは相当に巧い。
ただ、そう言っておいて何だが。この仕掛けはミステリとしての芯に直結するものではなく、ドラマ部分をひっくり返すためのものであるような気がして、驚いたけれど、それがどうしたの? という印象も持ってしまった。
とはいえ、この作者の力量は大したものではありますね。とりあえず次も出たら読んでみたいな、と。
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