2012-05-05
アガサ・クリスティー「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」
除隊して以来、定職につかずぶらぶらしていたボビイは、ゴルフコースを回っている最中に、断崖から落ちて瀕死の男を発見する。一瞬意識を取り戻したその人物は「なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?」と言い残して絶命した。貴族の娘、フランキーとともに事件の謎に挑むボビイであったが・・・。
1934年のノンシリーズ長編。若くて向こう見ずなカップルが主人公のロマンス活劇で、かなりコミカルというか、まあ大味ですかね。ただ、これ以前に発表された同趣向の作品と比べると、ぐっとミステリらしくなっています。
クリスティが脂の乗っていた時期であることを反映するように、中心となる謎が変化して行く展開や、叙述上のちょっとしたフックなど、ミステリファンの気持ちをくすぐる工夫が心憎い。その一方で、キャラクターがどいつもこいつも怪しげな上、少し思わせぶりが過ぎる感もあるかな。これでは誰が犯人であっても意外に思えないぞ。
タイトルになっている『なぜ、エヴァンズに~』はいわゆるダイイングメッセージなのだけど、犯人を直接指し示すものではないという、ちょっと珍しいパターンですね。終盤にその意味は明らかにされるが、これはスマートで、優れて現代的な落とし方ではないかな。また、それ以降の展開も意表を突くと同時にユーモラスであって、これには参ったね。大胆な伏線もなかなか綺麗に決まった。
ただ、ミステリとして綿密に計算された部分とプロットのご都合主義がうまくかみ合っていないようでもあって。そのせいか細部の辻褄に関しては説得力が弱く感じられるな。
細かいことを言わなければ、アイディアがあれこれ盛り込まれていて、充分に楽しめる娯楽長編ではあります。クリスティのミステリ作家としての持ち味が、こういった作品に合わなくなってきていたのかも。
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