『アルファベット・パズラーズ』『仮面幻双曲』と、戦前の探偵小説家を思わせる世界感の作品をものしてきた大山誠一郎。その新作は密室殺人を扱った短編集です。
「あの、密室蒐集家ってどなたですか」
「いわゆる『密室の殺人』が起きると、どこからともなく現れて解決すると言われている謎の人物や」
ユーモア交じりでも何でもなく、大真面目な会話だ。この作者のものを今まで読んだことがなくて、これが受け入れられない人は向いてないかも。リアリティ? 人間を描く? 物語性?――いやいや、スッカスカだよ、潔いほどに。
手掛かりが全て提示されたら、すぐに謎解きが始まってしまう。小説家としての成熟を犠牲にして維持され続けたアマチュアリズム、これこそが魅力だ。
密室の趣向が一つ一つ違うのは当然として、密室状況が存在するという事実そのものに特別な効果を持たせたものもあって、なかなかに(ミステリとしては)現代的。
そして何より盲点を突き、いつのまにか倒錯の域へとずれていくロジック、その異様さが素晴らしい。本当は探偵が作者の代弁者で無い限りはそこまで断定できるはずがないのだけれど、短編としてなら成立しているというスタイルで。推理とともに事件の構図が反転していくスリルもたまらんねえ。
個人的なベストは「少年と少女の密室」かな。あるトリックの意外な使い方が新本格テイストで嬉しくなってしまった。
ゴリゴリのパズラーを読む喜び、ここにあり。
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