2012-10-27
エドモンド・ハミルトン「フェッセンデンの宇宙」
日本独自に編まれた短編集で、純粋なSFに限らず、ファンタジーや奇妙な味風のものまであって、分かりやすいお話が並んでいます。
中心になっているアイディアには、後にさんざん手垢をつけられてしまうものが多いのは仕方がないところですが、シンプルな形で提出されたそれらはプリミティヴがゆえの迫力のあるもの。むしろ、プロット部分でのひねり方に今となっては予想が付く部分が多く、時代的な限界を感じるかな。
全体に、簡潔な描写で異世界のイメージを喚起する力が素晴らしく、情感部分での肉付けがしっかりされていることもあいまって、充分に読めるものになっているかと。
印象に残った作品をいくつか。
「向こうはどんなところだい?」 地球に帰還した火星探検隊員は、亡くなった同僚の遺族たちに会う約束をしてしまった。だが、本当のことを話せるだろうか?仲間たちは過酷な環境の下、まるで虫けらのように死んでいったのだ。
読んでいてどうしたって火星と戦場を重ねてしまう、苦く、とてもアメリカらしい小説だと思う。
「凶運の彗星」 彗星接近と、それによって引き起こされた地球での異変の描写が迫力があって良かった。ただ、その現象の背後にあった意図が明らかになった後の展開は窮屈かな。
「翼を持つ男」 突然変異を扱った一編。何ということはない話ではあるが、寓意にとらわれず、ただ数奇な運命を描いただけの物語は美しい。結末は、そうでなくっちゃねえ、という感じ。
「太陽の炎」 宇宙探査局を辞めて地球に戻ってきた男。水星で見た何が彼を絶望させたのか。
異世界の燃え上がるようなイメージが素晴らしい。それだけに理に落ちたような締め方がちょっと残念。
「夢見る者の世界」 ザールという異界に住むジョタン族の王子、カール・カン。豪胆で快活な彼の生活には奇妙な秘密があった。
いきなりの意外な展開による掴みがいい。活劇の迫力も充分だし、結末も決まった。個人的にはこの作品がベストかな。
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