2013-01-20

アガサ・クリスティー「死人の鏡」


1937年発表、ポアロもの4作品を収録した中短編集。

「厩舎街の殺人」 ガイ・フォークスの花火が賑やかに打ち上げられている間に起こった拳銃による自殺。だが、現場の状況は腑に落ちないものであった。
いつにもまして描写が簡潔で、ポアロとジャップの軽妙な掛け合いで進行していくさまは、なんだかラジオドラマの脚本を読んでいるようだ。
ミステリとしては、些細に思える違和感を丹念に結び付けていく手際がオーソドックスながらも巧い。

「謎の盗難事件」 英国の運命を左右する、ある設計図が盗まれた。それを取り返すべくポアロに依頼が。
ホームズ譚を思わせる設定ですね。はっきりとした手掛かりが見えない状態から、一気に綺麗な像を結ぶ解決はお見事。

「死人の鏡」 ある事件を極秘に処理するべく来てもらいたい、という招待の手紙を受けたポアロ。差出人は自負心が強いことで知られる資産家。だが屋敷に着いて見つかったのは、密室内で自殺を遂げていた当人の姿だった。
今回の中では一番量があって、その分手が込んでいます。中心になっているのは死んだ男の心の謎ですが、それだけではない細やかな伏線が効いています。トリッキーだし、クリスティらしい光景の逆転が冴えている。
そうそう、ちょい役で『三幕の殺人』にも出てきたサタースウェイトが再登場しています。

「砂にかかれた三角形」 夫をとっかえひっかえしていることで知られている美人をめぐる、三角関係の末の事件。
これが一番短い作品なのだけれど、その割りに事件の起こるまでの前振りが長いため、いささかあっけない感がある。意外な構図のずらしは強力だが、かなり強引でもあるよね。

初期の短編を読んであっさりしすぎかなあと思われた向きにも、そこそこ読み応えがある作品集になっているのでは。ありきたりなようで実は額面通りでない事件揃いというのが、この時期のクリスティらしい。

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