2013-02-25

S・S・ヴァン・ダイン「ベンスン殺人事件」


「ぼくのズボンがクリーニング屋に出してあるからといって、ぼくがクリーニング屋にいたってことになるかい?」

遂に出ました新訳ヴァン・ダイン、といっても実はヴァン・ダインは『僧正殺人事件』しか読んだことがないのだ。僕がミステリを読み始めた時分には既に、代表的な作品を除いては過去の遺物のような扱いだったのです。『グリーン家殺人事件』についてもある国内作家の作品や書評の中で犯人の名前をはっきり書いているものを目にしていたため、すっかり読む気が削がれてしまいました。
けれども一方でその作風が、初期のエラリー・クイーンや戦前における我が国の探偵作家たちに大きな影響を与えたらしい、という評判も目にしていたわけであって。新訳で出るなら読んでみよう、と思っていたのです。
で、どうだったかというと・・・。

警察による現場検証をしっかり書き込むところなど、なるほどこれはクイーンが踏襲したのだろうなあ、と。読み物としてもセンスが都会的であって、ちょっと洒落たユーモアが感じられます。この作品について言われた、一夜にしてアメリカの探偵小説を大人に、云々も肯ける。

純粋に謎解きとしてはどうかというと、現在の目からは厳しいというのが正直なところです。事件そのものは何の変哲も無いようなものであって、その解き方が肝心なわけなのだけれど、斬新なコンセプトを徹底し切れていない上、恣意的なところが目立ちます。
一方で、多重解決めいた趣向などは面白いですし、1926年の作品ということを考えれば凄い、ということになるのでしょうが。

大上段からかまされるはったりなど、いかにも古典らしく、そういった雰囲気はたまらないので、次作の『カナリア殺人事件』も新訳が出たら読むとは思います。
が、若い人にはお勧めしませんね。

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