1966年発表、原題は "THE CRACK IN SPACE"。クラックはダブルミーニングなのかと思ったけれど、そうでもなさそう。
中期ディックらしく、新奇なアイディアが次々に現れる。また、300ページちょいの話に30人ほどのキャラクターが登場。プロットの進行も乱暴と思えるほどに早すぎて、長編一本分の展開が物語の中ほどにくるまでに消費されてしまう。その分、深みとかはまるっきり無い。薄っぺら。
小説として破綻しているとか、途中で放ったらかしになるエピソード、なんてことを気にしていてはディックの作品は読んでられない。そもそもこの作家にとって現実というのがそういうものであったのだから。
ただ、この作品については元々が短編を引き伸ばしたものらしく、つぎはぎ感があからさまであって、整合性が弱い。危機はご都合主義の多用によって回避され、とってつけたような結末に至っては作中で、なぜこんなふうになったのかはわからないが、と断わられているほど。
面白くないわけではない。感動とか衝撃、あるいは斬新さなんてものとは無縁なだけである。
読んでいる最中はどこに中心となるテーマがあるのかがさっぱり見当がつかないし、予定調和からこれほどかけ離れた作品もそうないだろう。
脂の乗った時期のフィリップ・K・ディック、そのやっつけ作。
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