2014-02-09

フィリップ・K・ディック「時は乱れて」


〈火星人はどこへ?〉コンテストの常勝者、レイグル・ガム。今日まで二年間にわたって全国チャンピオンの座をキープ。コンテストが始まって以来、最長の記録。

退役軍人のレイグルは新聞の懸賞クイズをずっと当て続けることで高額の収入や名声を得てきた。だが、その代償として彼の精神は疲弊していく。やがて現実に小さな違和感を覚えるようになっていき・・・・・・。

1959年に発表された長編で、サンリオSF文庫から出ていたものの改訳決定版、だそうです。
舞台は作品が発表された当時の米国のようである。作中ではアイゼンハワー大統領や歌手、俳優などリアルタイムの著名人たちに触れられていて、つまりはこの小説は非常に現実に近いところから始まっていくわけです。ディック独特の奇妙なガジェットが活躍する機会もなく、まずは世界への(そして自分自身への)懐疑を抱いていく過程がじっくりと描かれていきます。

やがて新聞の懸賞、なんて大したこと無さそうなものがとんでもないところへと結びついていく。中盤よりそのヒントらしきものが大胆にばら撒かれていき、登場人物たちも大きく動き始めます。俄然、サスペンスが盛り上がり、頁を繰る手も止まらなくなる。

テーマとなっているのはこの作家お馴染みのものでありますが、今作はプロットが緊密、アイディアも分かり易く提示されています。それゆえ、真実が分かったとき、それまで見せられていた世界が変質していく、この仕掛けが抜群に効いてくるのです。つまりは面白いぞ、と。

ディックらしさと娯楽性が両立した上、完成度も高い作品であります。初めてのひとでもこれなら大丈夫かと。

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