2014-05-11

アガサ・クリスティー「忘られぬ死」


美しき妻、ローズマリーが自らの誕生パーティの席で自殺してから一年。だが、あれは殺人だったのではないか? 夫・ジョージは苦悩した末に、パーティに参加した6人を再び集め、真犯人を見つけだすことを決意する。

1945年発表作。『忘られぬ死』は米題で、英国ではクリスティの原案である "Sparkling Cyanide(泡立つ青酸カリ)" という、直接的なタイトルで出されました。
設定の大枠はポアロもの短編「黄色いアイリス」と共通するものが使われています。また、いわゆる回想の殺人を扱ったものとして『五匹の子豚』を思わせる構成もあるのですが、更にそこからの展開が待っています。

今作はノンシリーズ長編ではありますが、『茶色の服の男』やポアロものにも顔を出していたことのあるレイス大佐が登場、大きな役割を果たしています。
「レイス大佐は世間話があまり得意ではなかったが、あるいは旧世代の小説家たちに愛されていた強くて口数の少ない男の典型を気取っていたのかもしれない」という描写からはクリスティの男性作家観みたいなものが伺えて面白い。

肝心のミステリとしての出来ですが、これはグレイト、もう文句無しにグレイト。
犯人はどのようにしてグラスに毒を入れたのか? カーなら飛び切りの不可能犯罪に仕立て上げるところを、クリスティはフーダニットと絡めることによって大きな驚きを生み出すことに成功しています。
意外でありながらすっきりとした解決は冴えているし、印象的な伏線の数々も抜群。クリスティのある得意技が、ここではあざとさがなく実にスマートに決まっているのだな。

大して有名じゃない作品だと思っていたので嬉しい驚きでした。
クラシック・ミステリのニッチな発掘ものより、こういうのを読んでいたいよ、僕は。

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