2015-05-22

スタンリイ・エリン「特別料理」


米本国では1956年に出版されたスタンリイ・エリンの第一短編集。EQMM誌上に発表された十短編が年代順に収められています。原題は "MYSTERY STORIES" で、そのシンプルさは作品に対する自信の現われでもあるように思える。
エラリー・クイーンが熱の入った序文を書いていて、その文中でこの『特別料理』の〈クイーンの定員〉入りを宣言しているのだから、なんだか凄い入れ込みようだ。

デビュー作である「特別料理」がやはり頭ひとつ抜けている。作中の秘密は見えみえなのに、こんなに魅力的なのは何故だろう。表面的には事件は起こらないまま、暗示を積み重ねるだけで成立している物語で、その手触りはジェントルでブラック。店の主人、スピローの奇妙な話し方も印象的だ。
店内に肖像が飾られている「あの作家」とはアンブローズ・ビアスのことのよう。

その他の収録短編を読むと、エリンというひとはそんなに奇矯なアイディアで勝負するタイプではないように思える。しかし無駄のない語り口、その純度の高さは途轍もないもので、ぐいぐいと引き込まれていく。また、作品のオチは仮に先読みできるものであっても、その処理というか書き振りが洒落ていたり、あるいはそれによって意外な面を浮かび上がらせることで余韻を残すものばかりである。

そして、巻末に置かれた「決断の時」はリドル・ストーリーでありながら、どちらを選んだのかは実は問題ではない、そもそも正解がないからこその必然としてのリドル・ストーリーといった感じを受ける。結末がないにもかかわらず、描くべきものは全て描き切られているようでもある。極限の状況が生み出すゴシック的な恐怖も忘れがたい。

もしかしたらミステリしか読まないような人には向いていないかもしれません。
いかに語るか、がおそろしく高いレベルにある作品集でありました。

0 件のコメント:

コメントを投稿