2015-05-01

アガサ・クリスティー「蜘蛛の巣」


1954年に発表された、三幕ものの戯曲です。特にシリーズ・キャラクターが出てくることもありません。

戯曲なんて読むのは学生の頃以来で。そのときは筒井康隆の影響だったんだけど、ハロルド・ピンターとかさ。
だいたいが僕は芝居には興味がないのですよ。で、クリスティのミステリ作品を読んでいくについて、とりあえず「ねずみとり」のように原型となる小説がある戯曲は読まなくていいことにして、オリジナルのものだけを当たっていくことに決めたのです。
この『蜘蛛の巣』は女優さんからの依頼で書き下ろしたのだそう。

読み物としては中編程度のボリュームなので、あまり具体的な内容には触れませんが。喜劇的な要素の強いスリラーという感じで、死体をモノのように扱うところなどがヒチコックのある作品を思わせます。

一方、純粋にミステリとして見ると緩く感じてしまうのは否めないです。小説ならぼやかして描写するような不自然な行為(クリスティはこれが多い)も、はっきり書かれているために、犯人の見当が付き易い。フェアといえばとてもフェアですね(特にサンドウィッチを食べ続けると言う行為が、笑い所でありかつ、手掛かりにもなっているのには感心しました)。
あと、行動の描写がどうしても説明的なため、ややスリルが削がれてしまっているようでもあるか。

そういった点はあるものの、プロット上のツイストはいくつも効いていますし、雰囲気からは初期のクリスティの作品とも共通するような若々しさ、明るさが感じられて、楽しく読めました。

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