世界のさまざまな場所から何人もの科学者たちが次々と失踪していた。鉄のカーテンの向こうへと誘拐されたとも考えられるのだが、確かな証拠は何も無い。だが、英国情報部のジェソップはわずかな可能性に賭けて、作戦を開始する。
一方で、娘を病気で亡くし、浮気性の夫と別れたある女性がいた。彼女は遠くイギリスを離れた地、モロッコで自身の命を絶つつもりなのだ。ホテルの自室で多量の睡眠薬を飲もうとした矢先に、その部屋に侵入してくる者があった。
1954年発表のノンシリーズもの長編。
冒険スパイ小説という感じのもので、クリスティのこの傾向の作品がだいたいそうであるように、全世界を巻き込むどでかい悪事が企まれているのに細部がすっこぬけいて、およそリアリティは皆無。
こちらもその辺りは読む前から判っているつもりだったが、いや、なかなか突っ込み所は多い。田舎の村を舞台にした作品で有効だった手段を、そのまま世界規模の事件でも同じように使っている、という感じさえする。
さらに、ドキドキハラハラ編のはずが、本作では本当に危険な事件は何も起こらないように見える。ヒロインの感情の高まりも序盤がピークであって、あとは緩やかな不安が続くのみだ。
物語の起伏が乏しい上、道中にばら撒かれるサプライズもやや小さめ。読みやすいけれどスリラーとしては凡作。
なのだが、さて、この結末はいかに。これを取ってつけたものと感じるか、あるい大掛かりな誤導も決まった鮮やかな背負い投げと見るか。辻褄は合っているが、伏線が少ないようでもあるし、う~ん。
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