2016-04-10

ヘレン・マクロイ「二人のウィリング」


みずからベイジル・ウィリングと名乗る男を追って、本物のベイジルはあるパーティに参加する。だが、その男はベイジルの目の前で奇妙な言葉を残して息を引き取ってしまう。さらに、男をパーティに招いた老嬢も同じ晩に亡くなっていた。


ちくま文庫からのものでは二冊目になるヘレン・マクロイ。これは1951年、『暗い鏡の中に』の翌年に発表された長編です。

強力な引きのある発端から、ダイイング・メッセージ、不可能興味まで盛り込まれているけれど、それらの解決はみな結構小粒なものであります。というか、いかにも探偵小説らしい要素を配置しながらも、狙いはそこにはないのだな。
また、この作品ではベイジルのほかにも精神科医が登場、精神治療についての議論などもあります。これは装飾にとどまらず、プロットに有機的に絡んでくるのですが、だからといって頭でっかちな作品にはなっておらず、むしろ全体としてのリーダビリティはかなりいい。

テンポが良くスリラー味の濃い展開に導かれて解決に至った瞬間、それまでの不可解な台詞やさりげない会話に潜まされていた裏の意味が浮かび上がってくる。全体が丁寧に構築されていたことに思い至り、ううん、やっぱりマクロイはいいねえ。

分量はそれほどないし、純粋な謎解き小説として読むと当てが外れるかもしれませんが、いかにもマクロイらしいミステリが堪能できました。
しかし、この作家はもう結構な数の作品が翻訳されているのに、まだいいのが残っているのね。

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