2016-04-04

アガサ・クリスティー「鏡は横にひび割れて」


アメリカから越してきた有名な映画女優、マリーナが自宅でパーティを催した。その席で、彼女のファンだという地元の女性が毒殺される。だが、被害者の飲んだカクテルは、そもそもはマリーナに渡されたものだったのだ。
一方でそれに先立つある瞬間、何故かマリーナは凍りついたような表情をしていたそうなのだが……。


1962年発表のジェーン・マープルもの。マープルの登場する長編というのは12作品しかないのね。もっと多いものだと思っていた。この『鏡は横にひび割れて』はその8番目にあたるのだけれど、セント・メアリ・ミード界隈にも近代化の波が押し寄せてきている。また、マープル自身も老い込んできたことを気にしている様子。

それはともかく。
この時代のクリスティにしてはとてもしっかりとしたミステリではあります。しかし、僕もこれまで女史の作品を数多く読んできて、その手筋というものに慣れてしまっているため、真相やその動機には結構早い段階で気付いてしまったのですね。ちょっとあこぎな誤導があって、途中「?」とはなったけれど。
じゃあ面白くなかったのかというと、そうではなくて。生き生きとしたキャラクターやドラマの醸成など、骨格を支える肉付けの部分がよく出来ているし、脇筋になるような謎も興味を持たせるものになっています。

作者も70歳を過ぎていて、さすがに仕掛けの斬新さとかはないのですが。丁寧に作られていれば、意外性を感じることはなくとも楽しんで読める、ということですね。
もっと言えば、クリスティの作風に馴染みが無ければ、驚けたのだろうとは思います。しかし、その場合読み物として別の部分の楽しみが薄くなるのであって、痛し痒しですな。

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