2017-12-14

アルフレッド・ベスター「イヴのいないアダム」


日本独自に編まれた『願い星、叶い星』に初訳となる2作品を加えた短編集です。
収録全十編のうち1940年代初めに発表された作品がふたつ、1963年がひとつ、残りは全て'50年代に発表されたものとなっています。

「ごきげん目盛り」 アンドロイドとサイコパスを掛け合わせながら抽象的にならず、安っぽくも無い、迫力あるドラマになっているのが凄い。熱に浮かされたような文章のテンポが素晴らしいし、説明を大胆に削りながら物語を成立させられるというのはやはりうまいのだな。これが個人的なベスト。
「ジェットコースター」 歪んだ欲望が疾駆するクライムフィクションで、切れを感じさせる文体が気持ち良い。
「願い星、叶い星」 フレドリック・ブラウンを思わせるプロットの佳品だけれど、説明的になってしまう結末は現代からするとやや締まりがないか。
「イヴのいないアダム」 終末テーマの作品。変わり果ててしまった地球と、もがきながらもはや存在しない海を目指す男、そのじっくりとした描写が読みどころであります。
「選り好みなし」 割合にオーソドックスなSFで、ユーモアの利かせ方がうまい。しかし結末の付け方はいささかくどいように思う。この作品や「願い星、叶い星」を見ると、意外な幕切れの演出はあまり得意ではなかったのかな、と思う。
「昔を今になすよしもがな」 地球上で最後に生き残った男女の物語だが、発端から結末までまるっきりオフビート。荒廃した都市とたがが外れたようなキャラクターの対比もなんだか面白い。
「時と三番街と」 こういう具体的な落ちに向かって組み立てられているものは、今読むと(意味はわかるけれど)あまりピンとこないな。
「地獄は永遠に」 本書の中では一番分量のある中編。それぞれ様相の大きく異なる5つの世界を描き、最後にはそれらがひとつに貫かれるグロテスクなファンタジー。
また、今回追加された「旅の日記」「くたばりぞこない」は両方ともごく短い作品だが、落ちに頼らないゆとりのある語り口が好ましい。まあ、出来のほうはそこそこ。

同じようなテーマが何度も顔を出すのだが、その料理の仕方はさまざま。何を書くか、ではなくいかに書くか、の面白さですね。

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