2017-12-07

フィリップ・K・ディック「シミュラクラ〔新訳版〕」


21世紀半ば、世界はヨーロッパ・アメリカ合衆国(USEA)と共産圏に二分されていた。USEAでは巨大製薬メーガーが政府と結託し、精神分析医療を禁止する法案が成立。その朝、精神分析医のスパーブは覚悟の上でいつもと同じようにオフィスに出向き、患者を受け入れた時点で逮捕、連行される。そして、ある人物から条件付で、国中でスパーブひとりだけに医療行為を許可しようという申し出がなされるのだが。


1964年長編。
管理社会下で人々がなんとかマシな生活を送るべく汲々とする一方、一部の特権階級が陰謀を巡らす、そんなお話ですが。
登場人物がやたら多いです。特定の主人公がいない、群像劇というやつですね。仕掛けもたくさんあって、模造人間(シミュラクラ)、タイムトリップ、何十年も全く歳を取らないように見える大統領夫人、念動力で演奏するピアニスト、突然変異の種族、ヘルマン・ゲーリングなどなど。その他、ガジェットも散りばめられ、これぞディックだなあと嬉しくなる。

物語としてはテンポ良く場面が切り替わっていき、その都度新しい展開が生じていくので、読んでいる間はまったく退屈することはありません。後半に入るとそれが加速して、予想もしないような方向へ向かっていきます。
一方で、重要に見えた登場人物が中途で退場して二度と戻ってこなかったりと、色んな要素が投げっ放しで小説としてはまったく収拾が付いていません。
そして、結末は凄く古典的なもの。問題を残しつつ、とりあえずは終わるというかたちで着地します。ある種のSFってこういう締めが許されるのよなあ。

ここ最近の早川からの新訳のうちでは面白い部類の作品だと思います。ディックならではのセンスが暴走していて、実に楽しい読書でした。

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