2010-01-04

Procol Harum / Procol Harum (eponymous title)

昨年に英Salvoからリイシューされたプロコル・ハルムのファーストを聴いていたんだけれど、これ、音がイイ。今まで出ていた独レパートワー盤やそれを元にいじくった日本の紙ジャケCDは、音像がベタっとしていて、どの曲も同じように聴こえる(まあ、似たような曲調が多いんだ、確かに)。Salvo盤も勿論モノラルなんだけれど、分離が良く、ちゃんと奥行きが出ていて、印象を一新した感じ。古いCDを聴いて、こんなもんか、と物足りなかったひとには是非聴いていただきたい。アルバム自体の評価が上がるんじゃないかな。

このSalvo盤のボーナストラックにも当然「青い影 (A Whiter Shade Of Pale)」が収録されている。ブックレットを読むと、この曲についてプロデューサーのデニス・コーデル自身が当時のインタビューで、ゲイリー・ブルッカーのヴォーカルは「サイケデリックなパーシー・スレッジ」のように聴かせたかった、と言ってたらしい。してみると、元々「男が女を愛する時 (When A Man Loves A Woman)」との類似は意識されていたのだな。
「青い影」は我が国においては、「男が女を~」同様のロマンチックな曲だと思われているフシがあるのだが、実際には何だか気味の悪い歌詞が付いている。キース・リードの書く詩は難しすぎて、正確に意味が判ったためしはないのだが、それでも「青い影」の歌詞から受けるイメージは英国ゴシック小説の不気味さであって、普通のラヴソングであるとは思えないのだが。

ところで、従来のCDでは「青い影」の作者として、ゲイリー・ブルッカーとキース・リードの二人がクレジットされていたのだけれど、Salvo盤ではマシュー・フィッシャーの名前も入っている。数年越しの裁判の結果、昨年になってフィッシャーも作者としての権利がある、という判決が下りたのだな。フィッシャーによるイントロのオルガン(元はバッハだが)は曲を決定づけるものであって、印税もらってもいいかな、という気はするが、歌詞や唄メロを書いたわけではないので、自分の演奏パートをアレンジしただけだ、という見方もできる。この裁判が前例となってしまうと、ヘッドアレンジでも印象的なフレーズなら作曲となるわけで、何だかややこしいことではある。

Ian Dury / New Boots And Panties!!

「New Boots And Panties!!」(1977) は僕にとって、最初にドラムの格好良さを教えてくれたアルバムです。ファンクのフの字も知らない若い時分、パンクのレコードだと思って買ったら、いきなりの流麗な鍵盤のフレーズ、それに続く、沈み込むような、それでいて躍動するリズムになんだこりゃ? 違うLPが入ってたのか、と面食らったのであります。
アルバム全体、すごく無駄がないのにニュアンスが豊かで、特にチャーリー・チャールズの特別なことはしていないようなのに格好いいドラムに、これは何なんだろう、なんでこんなに気持ちいいんだ、と。このレコードと後、アル・グリーンですね、ドラムに注目して聴くようになったのは。叩き方は勿論、音色も素晴らしい。

にしても、初期のブロックヘッズはよろしいですね。ノーマン・ワット=ロイとチャーリー・チャールズという最強のリズム隊に、お洒落番長チャズ・ジャンケルの下世話一歩手前のアレンジ、その上で猥雑な日常を詩的に表現するイアン・デューリー。異種のセンスがちょっと無いようなバランスで成り立っていて、クールであり、また熱もはらんでいる。
「New Boots ~」の2枚組エディションにはデューリーとジャンケルが中心になって作成したデモテイクが多数収められている。それを聴くとアレンジはほぼ出来上がっているんだけれど、ところどころフュージョンっぽい瞬間があって、これがチャズ・ジャンケル本来の趣味なのかな、という気がします。

ところで、このアルバムの2枚組エディションは英DEMONから2種類出ています。先にリリースされたのが上に書いたデモ満載のやつで、これは日本盤も出ている。それとは別で、2007年に30周年記念盤としてCDとDVDがカップリングされたものもあるのだが、これはUK盤しかない。
DVDの内容は1977年12月にBBCで放送されたライヴであります。30分くらいのものではあるけど、極上のファンクから御機嫌なパブロック風味、そして激情を噴出させるパンクな面まで勢いに乗っている時期のブロックヘッズが確認できます。
ファンなら是非入手、と言いたいところなんですが、これUK盤なのでDVDはPAL形式なんですよね。再生環境があって、その上ダブリ覚悟でもいいファンなら是非。

2009-12-31

Everly Brothers / Roots

元々、カントリー畑が出身のエヴァリー・ブラザーズ。1960年代に入りワーナーに移籍してからは、それまでよりぐっとポップ寄りの音楽にシフトしていたのだが、'68年の「Roots」というアルバムはタイトル通りカントリーに戻った作品。なのだけれど、これはバーバンク制作というのがミソであります。バーバンク、といえば古き良きアメリカ文化をポップな形で甦らせる、というのがコンセプトのひとつ。故にエヴァリーズのこのアルバムも単にルーツに立ち返るのではなく、カントリーを素材にしながら新しい音楽として聴かせよう、という試みがなされている。

アルバムの所々には彼らが少年時代、家族でラジオ番組に出演したときの録音が配されており、ここら辺いかにもバーバンクらしいコンセプチュアルな造り。

収録曲にはクラシックなカントリーソングと新曲が混在しているのだが、あまり違和感がない。これはアレンジに関わったロン・エリオット(ボー・ブラメルズ)の手腕に拠るところが大きいのだろう。

ランディ・ニューマン作の "Illinois" はいつものニューマンらしい、ピアノオリエンテッドな美しい曲であります。

現代の視点からの聞き物はテンポ早目の曲で、これらは完全にカントリーロックといっていい仕上がり。フライング・ブリトー・ブラザーズのファーストで聴けるハーモニーは明らかにエヴァリーズの影響下にあるものだけれど、ここにおいてはサウンド面でもその原型が提示されているではないか。ペダルスティールが疾走し、ときにサイケデリックな領域まで踏み込む。また、ワウをかませたギターが唸る "T For Texas" では、マイケル・ネスミスのファースト・ナショナル・バンドのアイディアが既にここで演られている。恐るべし。

そして、まわりがどうあろうとエヴァリーズのハーモニーはあくまで端整で。深いエコーに包まれたギターのロングトーンに導かれ、鼓動のようなリズムに乗せて歌いだされるケイデンス時代の曲の再演 "I Wonder If I Care As Much" は感動的であります。

Dan Penn / Nobody's Fool


南部ソウルの白人ソングライター、ダン・ペンが1973年にリリースしたファーストアルバム。久しぶりに聴いたら、凄くポップだった。
楽曲のほうは一曲をのぞいてオリジナルで、当然のように粒揃いであります。また、プロデュースも自身でやっているよう。
カントリー的な甘さを含んだソウル、なんだけれど都会的なセンスが感じられる音は、裏方さんだけあって隅々まで考えられている感じ。弦アレンジはバーゲン・ホワイトで、これは素晴らしい仕事。

シンガーとしては渋くて雰囲気がある声で、歌心がちゃんとある。真っ黒なので逆にブルーアイドソウルのファンには合わないのではないか。
さすがに本職と比べると声量や太さという点でやや物足りないところもあるのだけれど、強弱の付け方が絶妙で、それによって説得力のあるものに仕上がっていると思う。また、ヴォーカルで力が必要とされるところでは上手くホーンやコーラスでフォローすることでも迫力を出している。こういう、サウンド込みでヴォーカルがどんな風に聴こえるか・聴かせるかということに対する配慮は、ちょっとアル・クーパー(「New York City」とか「Naked Songs」あたり)を思わせる。

どの曲も一見無骨で実は洗練されているといった感じだけれど、"Raining In Memphis" という曲はイントロからケツまで凝りまくったアレンジが抜群の格好良さ。当時のフィリー産の仕事と比べても遜色がないんじゃないかな。

べったりソウル、とも違う音でスワンプ・ポップとでもいうか。カントリー臭がOKなひとは是非。

2009-12-26

三津田信三「水魑の如き沈むもの」

三津田信三の新作は刀城言耶シリーズ、今までのうちで一番長いお話であります。
もしかしたらこの作品はシリーズ中のターニングポイントになるかも、という気が。

今回もホラーとミステリの要素の融合がなされているのは確かなのですが、今までの作品において怪異は、よくわからないが「あるかも知れないもの」として扱われていたのに対して、今作でははっきりそれが「あるもの」とした前提に世界が成り立っているような感じを受けました。

ミステリとしては技巧が洗練されてきた分、迫力が後退してしまい却って地味な印象になってしまったか。異常な状況下における連続殺人によるサスペンスは大部の物語を駆動するに充分な力がありますが、真相開示シーンにおいて今までは毎回、突き抜けた仕掛けが用意されていたのに、今回は少しずつ解答が改変されながら逆転を繰り返す構成なので、意外性によるせっかくの驚きがやや削がれてしまっているかな、と。
とはいえ、終盤まで大量の不可解な謎を残しながら、一挙にそれらが解かれていく迫力は健在であり、伏線回収も半端ではなく、この作者に期待されるレベルは充分クリアされていると思います。
また、ミステリファンなら、後期クイーン的な「探偵の操り」テーマが作中に泳がされているのにも注目せざるを得ないところ。

文章のこなれが良くなり、リーダビリティの向上も見られた今作。刀城言耶のキャラクターがどんどん金田一耕助に似てきたような気もするのですが。


2009-12-09

小島正樹「武家屋敷の殺人」

帯には「詰め込みすぎ! 掟破りの密室死体消失連続トリック!」と書かれていて、実際その通りバリバリの本格ミステリです。
20年ほど前の新本格を更に暴走させたような、アイディアとプロットの密度の高さを持っております。展開があまりにご都合主義であったり、設定やキャラクターが破綻しているようなところは気になり、小説としては褒められたものでは無いですが。

構成には島田荘司の影響が強く見られます。幻想的で強烈な謎をアタマに持ってきて興味を引っ張る。のだが、この冒頭の大ネタは御大さながらの豪腕によって小説前半でほとんど解かれてしまう。そして、そこから別の強力な謎がいくつも立ち上がり、さらには過去の因縁話なども絡んできて、ミステリとしてのスケールも大きくなっていきます。
そして解決部分のどんでん返し(わざわざ章題にも「偽りの真相」とあります)。間違っていた解決も結構説得力があって面白いのですが、後から出される解決のほうが更に良く出来ていて、これもレベル高いね。多重解決にありがちな、どの解決でもいいんじゃないの? 的な状態には陥っていませんし、後出しジャンケンでもない。ただ、ロジックの妙は薄いです。論証自体の面白さは感じられなかった。
後、作中には誤導もいろいろ仕掛けられていて、こんなにあからさまでは、というものから、微妙すぎて普通の読者なら読み飛ばしてしまうんじゃ、というものまであって、なかなか愉しいです。

作者のミステリセンスは疑いないところでありますが、減点法で評価されると駄目でしょうね。とりあえず面白い本格ミステリが読みたい、という人向き。それ以外の配慮はない小説です、清々しいくらいに。

2009-12-05

James Brown / Live At The Garden

ジェイムズ・ブラウン1967年のライヴアルバム、「Live At The Garden」がHip-O Select から2枚組拡大盤で出ました。5千セット限定だそうです。

このライブ盤の元々のものは、演奏はともかく、音が良くない上に編集も乱暴であって、ちょっとファン以外には勧められるものではありませんでした。その上、ジャケットのセンスもピンとこないものだし、そもそも「~ Garden」というタイトルなのに、実際は大会場であるマジソン・スクエア・ガーデンやボストン・ガーデンではなく、ラテン・カジノというサパークラブで収録されたもので、ちょっと詐欺っぽい。まあ、そのくらいのことで文句言ってちゃあJBのアルバムなんて聴いてらんない、というのも事実でありますが、翌年に出た「Live At The Apollo Volume Ⅱ」が代表作のひとつとして評価されているのと比べると、明らかに落ちる存在であって、初めてCD化されたのもかなり後になってからでした。

さて、今回の拡大盤ではオリジナルのモノラルLPを全収録した他に、新たに4トラックからミックスし直したものが入っています。この新ミックスでは、音が良くなっているのは当然として、前座の(といってもJBも参加しているのだが)インストと、それまでは短く編集されていた本編のショウの全容がしっかり収録されています。オリジナルのアルバムとは別物と言っていいんじゃないかというくらい、はっきりと見違える出来になっていて。というか、今まで随分もったいないことをしてたのな、という感じです。

肝心の演奏の方ですが、収録されたのがアポロシアターでのライヴ盤の半年くらい前なのだけれど、そちらとも結構違いますね。アポロでのライヴではすっかりファンキーソウルのスタイルが馴染んでいて、余裕も感じられるものでしたが、この「Live At The Garden」ほうは、性急さが勝っているという印象。まだ "There Was A Time" や "Cold Sweat" なんて曲が無く、過渡期といった風も。
また、そういった曲が無いせいか "I Got You (I Feel Good)" はフルコーラス演っていて、これは嬉しい。この曲、後のライヴになるとメドレーで2、30秒くらいしか演らなくなるので、サックスソロもしっかり聴けるここでのヴァージョンはいいですね。

で、今回の新ミックスでの一番の目玉は "Papa's Got A Brand New Bag" になるかな。この曲、オリジナルLPでは本来の曲を半分くらい切り出して、"Hip Bag '67" というタイトルを付けて収録されていたのですが、今回は9分越えの煮えたぎる演奏をフルで堪能出来ます。
あと、未発表であった "Come Rain Or Come Shine" というスロウでは、何故かロン・カーターがベースを弾いているらしく(と言ってもあんまり聴こえないんだけど)、これも発見、ということになるかなあ。

とりあえず嬉しいリイシューでありますが、ホント、'60年代のJBのカタログはちゃんと整理し直して頂きたいものではあります。