2011-06-25
The New Wave / Little Dreams: The Canterbury Recordings
男性デュオ、ニュー・ウェーヴが1967年にリリースした唯一のアルバム「The New Wave」。お馴染み英Now Soundsからステレオ&モノミックスにボーナス音源を加えてのリイシュー。
ようやくこれで、ケン・ハンドラーのカンタベリーレーベルから出された三枚のアルバムが全てCD化されたわけだ。
LA制作でアレンジはジーン・ペイジ、演奏にはハル・ブレイン、キャロル・ケイやヴァン・ダイク・パークス等の名前が。ロン・カーターがベースを弾いている曲もあるようです。
音楽的にはガットギターを中心にしたフォーク的なポップスで、ちょっとジャジーなセンスも感じられます。また、囁きに近いような男声ハーモニーはとても優しげ。そこに、美麗なストリングスやヴァイヴ、柔らかな木管などで室内楽的な装飾が施されており、ソフトサイケ的な印象も。
メンバーふたりの手によるオリジナル曲は穏やかなものが多く、ときに感じられるブラジル的なニュアンスが効いています。
唯一のカバーは映画、シェルブールの雨傘から "Autrefois" をボサノヴァアレンジで。ポップ過ぎない控えめな仕上がりもかえって節度が感じられて、良いです。
なお、グループ名は彼らがフランソワ・トリュフォーやジャック・ドゥミの映画に入れ込んでたので、ヌーヴェルバーグから取ったそうであります。すかした学生っぽいですな。
このCDの裏面には「File under: the perfect rainy day record」と書かれています。突き抜けたポップソングはありませんが、メロウで浮遊感を湛えた雰囲気をトータルで味わうアルバムかな。
2011-06-19
アガサ・クリスティー「おしどり探偵」
「次の事件はロジャー・シェリンガム風でやろうよ。タペンス、きみがシェリンガム役だ」
「だったら、おしゃべり屋にならなきゃね」
「きみは生まれつきそうじゃないか」
トミーとタペンスものの短編集。原題は "Partners in Crime" となかなか洒落ている。
ポアロものの第一短編集がシャーロック・ホームズ譚へのオマージュとしての面が大きいものであったのに対して、こちらではさらにそれを押し進め、各編でさまざまな探偵小説のキャラクターを真似て事件を解決していく、という趣向。ファン・ライターとしてのクリスティの面が出ていて、彼女自身も楽しんで書いた作品なのかな、という印象を受けました。
収録作品のなかにはなかなかキレのいい謎解きもあれば、いきあたりばったりに見えるものもありますが、どれも意外性に配慮したお話にはなっています。タペンスの方がトミーより人間心理に通じ、細部に目配りができるように思えるのだけれど、しばしばトミーがタペンスを出し抜いて事件を解決する場合があって。どちらが正しい線を追っているかが最後までわからない、というのも大きいかな。
また、このシリーズは良い意味でミステリとしてのこだわりが薄く、ユーモア小説の面も大きいので、古典的なパターンの探偵小説として読んでいると、思わぬうっちゃりを喰らったり。
ごく短い作品ばかりなのだけれどバラエティにも富んでいるので、古い海外物の30分ドラマを見るように肩肘張らずに読むのが吉かと。
ミステリ風コメディとして充分楽しめました。
2011-06-17
Paul McCartney / McCartney
バーカ、バーカ、俺のバーカ! こんなもん買っちゃったよ。
ポール・マッカートニーのアルバムでも結構好きなものとそれほどでもないものの2作、まとめてデラックス版で。
ホントはこんなに高価なものに手を出したくなかったのだが、「Band On The Run」のときのようなDVD入りで手頃なパッケージのやつが、今回は用意されていないのだ。相当悩んだのだけど、結局このゴツい奴を入手しました。
これ買っちゃうとなあ、ハイレゾ音源のダウンロード権が付いてくるでしょう。今まで手を出してこなかったPCオーディオの世界に足を突っ込むことになるんだよなあ。ああ、もう面倒臭い。
しかも、これ、扱いづらいな、重たいし。
とりあえず、ファーストソロである「McCartney」(1970年リリース)を聴いています。
ひとり多重録音で制作されたもので、EMIスタジオで録った一部の曲以外はざっくりしたデモっぽい感じの手触り。商売っ気の薄さが魅力のアルバムなので、これ、ファンじゃない人が聴いたら結構しようもないと思うかも。
インストや小品のような曲でも、そこかしこにポールならではのきらめきが感じられるのだけれど。
ボーナスディスクにはデモ、アウトテイクとともに1979年のグラスゴーでのライブが3曲。後々、このライブの全長版が出るという噂もあります。
さてDVDの方。まずはポール自身が語るアルバムストーリー。アニメーションは凝ったつくりですが映像は少な目。
続いては1970年、スコットランドでの映像。アルバムカバーにもなっている海辺でのホームビデオです。あんまり見てると泣きそうになるな。
"Maybe I'm Amazed" のミュージックビデオは当時の写真が次々と流れていく構成。
"Suicide" は「Band On The Run」リイシューのDVD収録「One Hand Clapping」からこれだけカットされていたもの。いかにも中途半端でありますな。
"Every Night" はカンボジア難民救済コンサートから。昔、ヤングミュージックショーでも放送した奴ですな。映像はそこそこ綺麗か。
"Hot As Sun" も同コンサートから。これは初見でした。
最後はMTVアンプラグドから "Junk" と "That Would Be Something" なんだが、時代が新しいにしては、ちょい画がボケ気味のような。
なお、DVD全体で32分程でした。
あと今回、このデラックス版のブックレットに散りばめられた当時の家族写真が、「McCartney」というアルバムのパーソナルな色彩に凄くマッチしているのですよ。だからこれは意外と良い買い物だったかも。
ただ、実はカンボジア、アンプラグドとも後々、単独タイトルでDVD化という噂があるのだが・・・。
2011-06-08
The Beach Boys / Today!
アルバム「All Summer Long」でサーフ/ホッドロッドに一旦の区切りをつけたグループがその翌年にリリースしたのが「Today!」。ここからいよいよモノラルミックスが始まるのだな。また、アナログA・B面がそれぞれロックンロールサイドとバラードサイドにはっきり別れているのも特徴であります。
冒頭の "Do You Wanna Dance?" はカバー曲であるけれども、ビーチ・ボーイズならではのサウンドになっていて、特にサビでの怒涛の盛り上がりが凄い。まさにビッグバンドによるロックンロール。この曲ともうひとつ、B面に収められている "I'm So Young" がカバーなのだけれど、この2曲において聴けるのがビーチ・ボーイズ流ウォール・オブ・サウンド、そのひとまずの完成形ではないだろうか。
その他、前半に並ぶ曲では、疾走感の中で切なさを感じさせるセンスが光っている。コーラスがドライヴ感を煽る "Don't Hurt My Little Sister" もいいですが、"When I Grow Up (To Be A Man)" の
「大人になってからも愛しつづけているだろうか/子供の僕を目覚めさせてくれたものを」
という歌詞は、いい年になってから聴くとどうしようもなく胸が締め付けられる。
バラードサイドでは "Please Let Me Wonder" と "She Knows Me Too Well" という、決定的な2曲が入っていて。ハーモニーが、とかメロディが、なんていう説明が空しくなる。ただ、僕はなんというかもう、長年の間ずっとやられっぱなしなのだ。聴いているこちらの心が剥き出しにされていくような感覚。
そして、チャントのようなトラックを除けば最終曲になる、"In The Back Of My Mind" は映像を喚起するようなサウンドが素晴らしい。そういえば、アルバムの最初と最後にデニス・ウィルソンがリードを取る曲が置かれているのだな。
内省性の発露がそのままロマンティシズムの強化に繋がった、ビーチ・ボーイズ、1965年の現在。過渡期だったのかもしれないけれど、このままでもう充分、という気もする。才気の中に息づく、青い瑞々しさよ。
2011-06-05
Ronny & The Daytonas / Sandy
ロニー&ザ・デイトナズはナッシュビル出身のサーフ/ホッドロッドバンド、というと何だか変ですが、実際そうなんだから仕方ない。
1965年暮れ、そろそろサーフィンだけでは商売にならなくなってきた頃にロマンティックなバラード曲 "Sandy" をリリースしたところ、翌年初めにこれがスマッシュヒット。それを受けてアルバムが制作されました。
内容の方はバラードがヒットしたせいなのか、ゆったりとしたテンポの曲ばかりが入っていて、ビートが強調されたものは皆無。また、ボーカルもとてもジェントルというか非常に穏やかなものであって、どこがデイトナなんだ、という感じ。ずっと聴いていると、もうちょっと変化が欲しくなっていくるのも確か。
ただ、個々の曲はどれも良く出来ていて、いかにもアメリカン・ポップらしいメロディはドリーミー、という形容がぴったり。アレンジも派手さはないものの、きらきらした鉄琴の使い方や控えめなオーケストラ、そして勿論コーラスがどれも美麗な仕上がり。
また、パーカッションの効かせ方などはいかにもフィル・スペクターを通過、という感じであって。"Hold Me My Baby"という曲など、大瀧詠一そのものであります。
アルバム全体をほのかに覆うメランコリックな雰囲気が心地良い。
’60年代中期のビーチ・ボーイズで聴かれるような、内省的なバラードが好きな向きなら気に入るんじゃないかな。
2011-05-29
Gil Scott-Heron and Brian Jackson / Bridges
トレンドに乗っかり、テンプレートに上手く嵌めて作ったような音楽と、そうでない、ジャンルや自己イメージにも縛られずに出来上がった表現。いちリスナーとしては、どちらが上だということはないのだけれど。
ギル・スコット・ヘロンの音楽はまさしく後者であり、そしてそれが現在もなお範を示し続けるような存在であった。
「Bridges」は1977年のアルバム。スティーヴィー・ワンダーのスタッフであったマルコム・セシルを迎え、サウンドはそれまでとはかなり変化。シンセの占める割合が大きくなり、バンドによるスポンティニアスな雰囲気は後退、密室性が感じられるものとなった。
アレンジにおいても前作である「It's Your World」で目立ったラテン風味が一掃、ジャズファンク云々と断わる必要なく、普通にニューソウルとして聴けるものに。ブライアン・ジャクソンの鍵盤もとてもメロウに響く。
全体に重いメッセージ性は残しながら、それが突出することなくグルーヴに身を委ねていけるようである。時代的に、ややディスコ入っているかも知れないが、鼻に付かない加減もいい塩梅で、そのおかげでいまだに古びない表現に留まっているのだと思う。
そして、確かにスティーヴィー・ワンダー成分が一気に増量されてはいるが、本家には無いような、日常を駆動する力強さが第一に感じられるのが素晴らしい。
くそっ。泣きながら踊れ。
2011-05-22
Terry Callier / Occasional Rain
雨の休日、らしいやつを。
カデット、というレーベル名はなんかそそるんだよね。チェスレコード傘下のジャズ部門なんだけれど、デルズやアース・ウィンド&ファイアなんかもここから出ていた。ハウスプロデューサーとしてチャールズ・ステップニーを擁していたことも大きい。
テリー・キャリアーという黒人のシンガーソングライター。1972年、カデットからの一枚目のアルバム「Occasional Rain」もチャールズ・ステップニーが手がけています。
いわゆるソウルとは違う、セオリーに頼らない独創的な音作りが光っていて。音をひとつひとつ積み重ねたようなサウンドは色彩豊かで優美、ときに実験的な印象も受けますが、出しゃばり過ぎてもなく、あくまで中心になっているのは唄であります。ただ、グルーヴ感には乏しいかな。
人気曲 "Ordinary Joe" はシンプルなリズムに複数の鍵盤の絡みだけでポップな拡がりを出していて、これも大したものです。
また、弾き語りに控えめなバッキング、もしくはストリングスが付与された曲で僕が連想したのはニック・ドレイクやティム・ハーディンだったりする。
同じようにシンガーソングライター然としたひとであっても、ビル・ウィザーズの作品とも全く違う。ニューソウルですらない。ジャンルに縛られない芸術的自由を目指した時代の音楽。
テリー・キャリアー本人の書く曲はどれもいいメロディで、ちょっと変わったフックがあったり。
そのボーカルも力強く、情感溢れるもの。クールな印象の演奏に、湿度を感じさせる歌は良く映えているのだけれど、ビブラートがしつこく感じられるときがあり、好みが分かれるところかな。
落ちついてじっくりと聴きたい、メロウな気分の一枚。
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