2011-01-02

アガサ・クリスティー「ポアロ登場」


クリスティにとって最初の短編集はエルキュール・ポアロもの。
原題も "Poirot Investigates" と非常にシンプル。

短編として考えても短めのものが多く、謎解きとして手がかりは十分とはいえず、ロジックは緩いし、ちょっと無理があるんじゃ、というものも。ミスリードもごく分かり易いものだ。アイディアとしては優れたものが多いので、もっとじっくり書き込めば結構なものができたのでは、と何度も思わされた。
とはいえ各作品に変化をつける工夫はなされているし、必ず意外性の演出が凝らされているのはさすが。また、ポアロのうぬぼれが強く、綺麗好きなキャラクターが戯画的なまでに誇張されて描かれているのも面白い。

いくつかの作品では明らかにシャーロック・ホームズ譚をお手本にしてあります。書き出し、もしくは締め方がそっくりであったり、舞台設定を借りたものもあり、盲点をつくパターンを踏襲した節も。果ては、ある有名作品の決め台詞をもじったようなものまであって、思わず笑ってしまった。

中では冒頭を飾る「〈西洋の星〉盗難事件」が一番長さがあり、読み応えがあった。
これもホームズ譚をなぞったような出だしなのだが、ポアロの事件との関わり方に非常に大胆な仕掛けがあって、これを短編集のいきなり最初に持ってきていることにちょっと驚いた。
ヘイスティングズのミスがプロットに捻りを与える役割を果たしており、それを見越した上でのポアロの独走、という長編でもお馴染みのスタイルが楽しめます。

正直、現代の目から見ればミステリ短編集としてはちと喰い足りないですが、どの作品も幕切れが洒落ているのがクリスティならでは、ということになりますか。

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