「次の事件はロジャー・シェリンガム風でやろうよ。タペンス、きみがシェリンガム役だ」
「だったら、おしゃべり屋にならなきゃね」
「きみは生まれつきそうじゃないか」
トミーとタペンスものの短編集。原題は "Partners in Crime" となかなか洒落ている。
ポアロものの第一短編集がシャーロック・ホームズ譚へのオマージュとしての面が大きいものであったのに対して、こちらではさらにそれを押し進め、各編でさまざまな探偵小説のキャラクターを真似て事件を解決していく、という趣向。ファン・ライターとしてのクリスティの面が出ていて、彼女自身も楽しんで書いた作品なのかな、という印象を受けました。
収録作品のなかにはなかなかキレのいい謎解きもあれば、いきあたりばったりに見えるものもありますが、どれも意外性に配慮したお話にはなっています。タペンスの方がトミーより人間心理に通じ、細部に目配りができるように思えるのだけれど、しばしばトミーがタペンスを出し抜いて事件を解決する場合があって。どちらが正しい線を追っているかが最後までわからない、というのも大きいかな。
また、このシリーズは良い意味でミステリとしてのこだわりが薄く、ユーモア小説の面も大きいので、古典的なパターンの探偵小説として読んでいると、思わぬうっちゃりを喰らったり。
ごく短い作品ばかりなのだけれどバラエティにも富んでいるので、古い海外物の30分ドラマを見るように肩肘張らずに読むのが吉かと。
ミステリ風コメディとして充分楽しめました。
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