2011-12-11
The J.B.'s & Fred Wesley / The Lost Album featuring Watermelon Man
JB'sのバンドリーダーであったフレッド・ウェズリー。彼が1972年に制作しながらもお蔵入りになっていたアルバムがHip-o Selectよりリリースされました。
タイトルになっているハービー・ハンコックの "Watermelon Man" のファンキーなカバーは以前から聴いていて格好いいな、と思っていたので期待したのだけれど。
うーん、ジャズですね、品のいい。ファンクじゃなかった。名義にはJB'sと入っていますが、1曲目の "Watermelon Man" を除けばフレッド以外はすべてNYのセッションミュージシャンによる演奏で、乗りが全然違います。
なお、アレンジはJB'sのデイヴ・マシューズが担当。ジェイムズ・ブラウンはプロデューサーとしてクレジットされてはいるけれど、"Watermelon Man" 以外の曲ではレコーディング・セッションには立ち会っていなかったそうであります。
2曲目から5曲目までは、耳当たりは良いけれどスリルに欠ける曲が続いて、いやはや。何が悪いってわけじゃないけどさあ。
6曲目の "Transmograpfication" はJBのサントラ「Slaughter's Big Rip-Off」に収められていた曲のロング・ヴァージョンで、これは不穏な雰囲気があって、まあ聴けるかな。
アルバムの残り3曲はそこそこファンキー、ここに来てちょっと持ち直した、という感じ。
ボーナストラックはシングルでリリースされたものが4曲、そのうち "J.B. Shout" と "Funky & Some" がファンクといえるもの。"J.B. Shout" はJB'sのアンソロジーにも入っていたな。"Funky & Some" の方もソリッドな格好良さのあるもので、これには満足しましたよ。
ショップの大袈裟な宣伝文句に乗せられて買う人もいるかも知れませんが、これは熱心なファン向けのものだと思いますよ。
JB'sの名が付いて無かったら、もっと違う感じで受け止められたかも。
2011-12-10
The Monkees / Instant Replay
モンキーズの1969年のアルバム「Instant Replay」がライノ・ハンドメイドから三枚組仕様で出ました。
「Instant Replay」はピーター・トークが脱退、三人組になってからは初のアルバムで、サウンドトラック盤「Head」のリリースよりわずか二ヶ月後に発表されたものであります。
内容としてはメンバーそれぞれが制作した曲と、過去にレコーディングされたものの未発表であったものが半々で構成されています。この頃にはグループは既にキャリアの終盤に差し掛かかりつつあったのだけれど、そういった事情を気にしないで聴けば、ゴージャスなプロダクションによる、凄く良くできたアルバムで、「The Birds, The Bees and The Monkees」と比べても少しも落ちることがないと思います。
ソフトサウンディングな面が強調された佳曲が多いのだけれど、中でもキング&ゴフィン作の "I Won't Be The Same Without Her" なんてマイナーなソフトロックのグループ程度は軽く吹っ飛ばす出来。あと、異色なのがニール・ヤングの独特のギターが鳴り響く "You And I"。ロック色が強くて、格好いい。
パッケージを開くと7インチシングルが |
紙ジャケットに収められたCD3枚にブックレット |
紙ジャケットの裏はこんな感じ |
ディスク1「Stereo Album And More」はステレオミックスによるアルバム本編と、当時制作され、後にさまざまな編集盤に収められていたレアトラックが中心で、28曲入り。
個人的には、マイケル・ネスミスが'68年にナッシュビルで行なったセッションが一箇所に纏められたのが嬉しい。ハリウッド制作のカントリーポップ "Nine Times Blue"、"Carlisle Wheeling" も併せて堪えられないのだけれど、既にソロの領域でもあるような。
ディスク2「Mono Mixes And Rarities」はモノミックス集で、こちらは29曲入り。「Instant Replay」はモノラルではリリースされていないので、アルバム収録曲全てのモノヴァージョンは揃っていないし、ボーカル違い、別アレンジのものも含まれていて、やや中途半端かな。それでも "A Man Without A Dream" はリズムが強調されていて、いい感じ。
その他、当時制作されながら未発表であったモノミックスが片っ端からかき集められているようです。中にはステレオとはかなり印象の違うものもあって、面白い。
ディスク3「Sessions」は収録30曲のうち19曲がバッキング・トラック・セッションで、ボーカルが無いものをこれだけ聴くと、ちょっと辛いか。
なお、TVショウ「33 1/3 Revolutions Per Monkee」で披露された曲のバッキングトラックも収められてるのですが、後半にはちゃんとボーカル入りのものも5曲あって、これは嬉しい驚き。
「Head」の三枚組はネタ切れ感が強かったけれど、今回の「Instant Replay」はちょっと持ち直したように思う。当然「The Monkees Present」も出るんだろうな、うん。
2011-12-05
アガサ・クリスティー「邪悪の家」
ポアロとヘイステイングズが保養地で出会った若い女性に、最近三度も命の危険にさらされた、という話を聞かされる。そしてまさにその最中、一発の銃弾が。殺人を未然に防ごうとするポアロであったが・・・。
エルキュール・ポアロものとしては六番目の長編。
事件はひとつしか起こらず、関係者は限られているが、みなアリバイは無い。現代から見ると、これで大丈夫なの? と思うほどあっさりした設定だけれど、こういったものでこそ推理作家としての技量がはっきりわかるのでは。
狙われる側の女性における、人間性の謎。そんなものでちゃんとミステリとしての盛り上がりを作ってしまうのだから、凄い。事件そのものに派手な要素がなくても、殊更に奇をてらうことなく興味をつなぐことは出来るのだな。
ある程度読みなれたひとなら直感的に犯人の見当は付くかもしれないし、大詰めの演出だってよくあるものだが、それゆえにクリスティならではの創意を味わうことができる。
解決部で次々に明らかにされる意味の反転は、本当にお見事。大胆な手掛かりが同時に、誤導としても機能していて、その無駄の無さときたら。
あと、容疑者リストのこの使い方はどうだろうか。
軽快な運びも好ましい。ウェルメイドの魅力、安定の一作。
2011-12-04
The Rolling Stones / Some Girls
二枚組のやつを買いました。
一枚目は「Some Girls」(1978年)本編だけど、これは二年前のリマスターと同じなのかな? ドンシャリで。コンプレッサーを強くかけたようなスネアの音はあんまり好きじゃないな。
二枚目のほうは当時のボツ曲に新たにオーバーダブをして完成させたもの。こちらは本編よりも自然な音の鳴りをしています。ミックスはボブ・クリアマウンテンの丁寧な仕事。ただ、昔の録音、という感じが無いのはいいのか悪いのか。猥雑さが足りないような。
ミックの今の声が混ざってるのが嫌だという意見もあるようで、まあ、確かにスロウではくどくてやらしい感じはします。
曲としてはラフでルーズなロックンロール、あとカントリーっぽいものが目立つ。「Some Girls」本編で見られたような攻撃性は薄くて、もっとリラックスした感じ。ワンアイディアで押し切ったようなものが多く、中にはつまんないのもあるよ、うん。
去年出た「Exile On Main St.」のときは本編も新規リマスターだったので、二枚目は豪華なオマケくらいに考えて納得していたんだけれど。今後、このレベルで色々出されたら、ちょっと考えてしまうな。
大昔に初めて「Some Girls」を聴いたときは、テンションの高いジャンプに圧倒された。 "Lies"、"Respectable" とか曲としては大したことないんだけれど、僕も若かったのでテンポの早い曲が大好きだった。今はじっくりとしたタイトル曲の方が良いと思う。
ギターをいっぱい重ねて厚みをつける、というのはここらからかな。それまではリズム×2、リード×1くらいだったのが、ちょっと聴きにはよくわからんくらい入れる、というやり方。ずっと聴いてるとちょっと飽きる。雑な感じがして。
それから "Miss You" なんて全然ディスコじゃないと思ったし、今でも思ってるよ、ゆるいファンクだよね、これは。
改めて聴き返してみるとパンク云々より、都会的なロックンロールとしての面が格好いい。
それでも "Before They Make Me Run" を聴くと、クラッシュのミック・ジョーンズを思い出すんだけれど。
2011-12-03
ジャック・カーリイ「毒蛇の園」
「いたるところにあるスピーカーからジェイムズ・ブラウンの声が流れ、火傷をした山猫のように激しい声で "ベイビー、ベイビー、ベイビー" とわなないていた」
"I Got The Feeling" だろうか。作中でラジオ局が重要な役割を果たしているせいか、これ以外にも音楽についての言及が目に付く。パーティ会場のバンド演奏、モンゴメリー室内管弦楽団、ロイ・オービソン、ブーツィ・コリンズ、オーディオセットやカーステレオで鳴らされるスウィングジャズ、そしてデューク・エリントンの "East St. Louis Toodle-Oo"。
カーソン・ライダー刑事を主人公とした三作めは、またしても猟奇的な殺人で始まる。ただ、今回は読者にとってははじめから犯人がはっきりしているように見える。施設から逃げ出してきたらしい全身毛むくじゃらの男、ルーカス。窃盗をしたかと思えば、ビジネスマンに扮してみたり、凶暴で知的、大胆不敵なこの男は一体何を目論んでいるのか?
いろんな要素がぶちこまれてごたついていた前二作と違い、すっきりとした警察小説といった印象で。強力な謎が引っ張るわけではないのだが、サスペンス的要素が濃く、場面転換もテンポが良いのでどんどんと読めてしまえる。
また、何もなさそうなところに埋め込まれている地雷のような仕掛けは今作でも健在であります。
伏線の置き方は、ここには手掛かりが隠れている、とはっきりと書かれているが読者にはそれが何を意味しているのかは判らない、というもの。そして、それが明らかにされたとき、これまで見せられていたものが違う意味を持ちはじめ、事件の様態そのものがねじれて行く。それが物証だけでなく人間性にまで及んでいるところが巧く、真相には前作『デス・コレクターズ』同様、ロス・マクドナルドあるいは後期クイーンが好んだ構図に近いものを感じました。
驚きを物語のヤマに据えていないせいか世評はそれほど高くないようなのですが、小説としてのこなれも良くなり、個人的にはこれまで読んだ三作のなかでは一番面白かった。ただ、謎解きが終わってから後の部分、お話の解決は相変わらず強引。
ハリーが格好いいな。
2011-11-27
北山猛邦「『アリス・ミラー城』殺人事件」
孤島の洋館「アリス・ミラー城」に探偵たち八人が招かれる。彼らはそれぞれが依頼によって、ルイス・キャロルの小説「鏡の国のアリス」中でアリスが通り抜けた鏡を手に入れるべく、島を訪れたのだ。
彼らに、島の持ち主とメイド一人ずつを加えると、全員で十人。一方「アリス・ミラー城」の一室にはチェス盤があり、その上には白の駒が十個置かれている。
さらには第一章のタイトルは「remain 10」となっていて、そこでひとつのルールが宣誓される。
『アリス・ミラー』を手に入れられるのは、
最後まで生き残った人間のみ。
『そして誰もいなくなった』式の話なので当然、誰が犯人なのか? が最大の謎なんですが、ハウダニット、ホワイダニット的興味も充分。
施錠された密室で発見された顔のない死体、姿を見られながらも一瞬後には消えうせる犯人、バラバラ死体、殺人が起こるに伴い変化するチェス盤、それまで無かったところに出現する扉、生きている人形、などなど。とても判り易くミステリ的趣向に満ちみちた作品であって、さまざまな推理や奇想天外なトリックも読み応え満点。
連続殺人が起こっているのに、どこかひんやりとした印象なのはこの作家の持ち味でしょうか。
あまりに意外な結末は注意深く読んでいなければ、すぐに意味が判らず、ただ呆気にとられるかも。このトリックをこの物語のなかに落とし込んだ、というのが肝かな。ただ、読み返してみると周到さに感心するより、不自然な部分が気になってしまったのだけれど。
まあ、読んでいる間は無類に面白かったのは確か。
2011-11-25
Collage / Collage (eponymous title)
コラージュという名のグループは前にも取り上げたことがあるけれど、こちらはそれとは無関係のもの。Creamレーベルから1971年に出たおそらく唯一のアルバム、なのだが。
何しろ情報がない。韓国Big Pink MusicからのCD化であるが、メンバー写真はないし、演奏パーソネルの記載もない。とりあえずマイク・ヌーチオというひとがメインのソングライターで、アレンジャーのようであります。
聴いてみると、収録されている曲には明らかに録音の感触が違うものが混在していて。いくつかについては'70年代に制作されたものではないだろう、と思ったのね。
んで、いろいろ調べてみたんだが。
'60年代にアメリカ中西部で活動していたChevronsというグループがあって、前述のヌーチオもメンバーであったのだけれど、このアルバム収録のうち四曲はそのChevronsが1968、9年にシングルでリリースしたもののようなのだな。
推測なんだけれど、このアルバムはマイク・ヌーチオが'関わった'68~'70年くらいの作品をコラージュという名義でまとめて出したものではないだろうか。
曲調はソフトサウンディングなものをはじめ、バブルガムにフォークロック、ホーンを配した都会的なものなどいろいろだけど、全体にポップスとしての線は外れていないですね。
中でもやはりヌーチオが書いた五曲がどれもメロウで出来が良く、アルバムのハイライトと言えるのでは。
特に "Mine Forever More" というミディアムのシャッフルは、ピアノが四分を刻むイントロを聴くだけで、これはいい曲に違いない、と期待が高まる。ノーブルで張りのあるボーカルに運ばれるメロディは甘く、コーラスはアソシエイションを思わせる美麗なもの。
アルバムとしてのトータリティとかはないですが、いい曲が多いのでサンシャインポップのファンなら是非。スパイラル・ステアケースあたりが好きなら、気に入るんじゃないかな。
しかし、こういったオブスキュアなものまで権利をクリアしてくるとは、恐るべしBig Pink。
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