2014-08-07

The G/9 Group / Brazil Now!


セルジオ・メンデス&ブラジル'66が大当たりしているのを見たCBSレコードのひとが、ああいうのをうちでもと考えて、ブラジルのミュージシャンたちに作らせたアルバム(とライナーノーツにはあります)。1968年のリリース。
内容は、当時のブラジルでのヒット曲・有名曲を中心にした、特に変わったことをやるわけでもない、歌物のジャズボッサです。しかし、非常に演奏が的確。特に鍵盤ですね。ちょっとラウンジっぽいのですが、歯切れのよいタッチが効いています。また、録音もスモールコンボの表情が生き生きと捉えられていて、それが親しみやすさに繋がっているかと。

これを聴いていると、ブラジル'66ってのはやっぱりアメリカン・ポップだよなあ、と思う。このG/9グループというのも取り上げているのはわかりやすい曲ばかりだし、英語詞で歌ったりもしているのですが、サウンド自体はあまり米市場向けには寄せていないような気がするのですね。あくまでブラジルのポップス、そこから海外受けの要素を切り出したもの、という印象で。

ともかく、いいグルーヴがポップスとしての明快さをもたらしている、そんな一枚です。マルコス・ヴァーリの米制作盤「Samba '68」と共通するテイストも感じますよ。
特にジョアン・ドナートの曲 "Sambou...Sambou" が、メロディの良さが際立っていて、とても気に入っています。絶妙なレトロ風味も気持ちいいな。

なお、このアルバム、独Sonoramaからのリイシューでは音飛びがあったそうなんですが、僕の持っている国内盤では修正されているみたい。

2014-08-01

Peggy Lipton / The Complete Ode Recordings


女優、ペギー・リプトンがルー・アドラーのOdeに残した音源が米Real Gone Musicよりまとめられました。内容はというと、唯一のアルバムに、それより後にシングル・オンリーで出された4曲、更には未発表曲も4曲というなかなかの充実ぶりです。


アルバム「Peggy Lipton」は1968年リリースで、この頃彼女は21、2歳だったよう。プロデュースはルー・アドラー、管弦も惜しみなく使ったアレンジはマーティ・ペイチ、演奏はLAのセッションマンであって、しっかりと作られたポップスになっています。

収録曲全11曲のうちキャロル・キングのものが5曲、ローラ・ニーロが2曲取り上げられていて、残る4曲が彼女の自作であります。ペギー嬢自身がキャロルやローラから影響を受けていたそうで、自作曲はいかにもそれ風のもの。そこそこの出来ではあるものの、本家の曲と並べてしまったことで逆に見劣りがしている感じも。
一方で、ボーカルなんですが、これは、うん、うまくないです。軽めの曲調のものではそんなに気にならないのだけれど。とはいっても、キャロル・キングの歌だっていい勝負ですが。もう少し声にキャラクターがあれば良かったかな。

なんだかろくなことを書いてませんが、いずれも本職のミュージシャンとして考えた話であって、女優さんの余技としては作曲・歌唱とも十分以上なものであるかと。「名盤」とか「傑作」を期待しなければ、選曲やゴージャスなプロダクションにも助けられて、全体としてはなかなか聴けるアルバムだと思います。


また、シングル曲や未発表のものはアルバムよりも軽快なつくりであって、個人的にはむしろこっちの方がいいのではないかな、と。アルバムは年齢の割に落ち着きすぎのような。
中でもジム・ウェッブが書き、アレンジを手がけた "Red Clay County Line" がいかにもな感じで、悪くない。
そして、ペギー・リプトンの自作曲である "I Know Where I'm Going" は'60年代らしいフックがあるメロディで、これは良いね。

2014-07-27

ジョン・ディクスン・カー「テニスコートの殺人」


これも大昔に旧『テニスコートの謎』で読んで、なんとなくは覚えているような。
足跡のない殺人ものであります。しかも犯行方法が絞殺とくれば、なかなかの難易度。

事件は不可能犯罪なのか、そうでないのか、その境界で揺れ続けるという趣向がひねくれていて面白い。読者は果たしてヒロインを信じて良いのか?
また、主人公はヒロインを窮地から救おうとするものの、予想外の出来事が襲い掛かり、サスペンスと同時に謎が増していくという、よくある演出だけど、この辺りもうまい。ストーリーテリングの冴えといいますか。
うん、中盤くらいまでは凄くいいんだけどなあ。

最後まで読み進めるとプロットはつぎはぎっぽいし、ご都合主義が目立つ謎解きにはどうしたって無理がある。とてもオリジナルなメイントリック(ここまでやるか!)も含めて、これもカーらしさなんだけれど、下手すりゃ古臭いと思われるかも。
さらには微妙な記述もあって、個人的には思わず嬉しくなってしまったのだけれど、怒るひともいるよな、これは。

意外に面白かった。けどまあ、ファン向けですね。

2014-07-21

Curtis Mayfield / Back To The World


カーティス・メイフィールド、スタジオ録音としては4枚目のソロアルバムで、1973年のリリース。
サントラでもある前作「Super Fly」('72年)、その収録曲における作曲クレジットを巡って揉めた末、カーティスは十年来の付き合いであったジョニー・ペイトと決裂してしまいます。で、このアルバムでのアレンジはリッチ・テューフォが担当。これ以前と比べるとやや落ち着いてはいますが、よりシャープで都会的なサウンドになっています。

冒頭のタイトル曲 "Back To The World" が一番好きですね。緊張感がありつつ非常にメロウな仕上がりが素晴らしい。イントロで管の入ってくる瞬間の格好いいこと。このセブンスの感じがシカゴソウルだよねえ。
残りの曲も、前作の流れを汲むようなファンク "Future Shock" やスリリングな展開の "Right On For The Darkness"、ラテン風の味付けが楽しい "If I Were Only A Child Again" もあれば、ほぼインストのような "Can't Say Nothin'"、可愛いポップソング "Keep On Trippin'" にオーソドックスなソウルマナーを聴かせてくれるスロウ "Future Song (Love A Good Woman, Love A Good Man)" とバラエティに富んでいます。
シリアスなメッセージも軽やかに届いてくる、風通しのいいアルバムであって、実はカーティス入門には打ってつけの一枚かも。

ところで、"Future Song" という曲は(オリジナルでは)アルバムのクローザーのはずなのだが、これがジャケットにはB面一曲目のように書かれていて、実際に盤によってはその位置に収められているものもあるよう。どうしてこういうことが起こったのかは謎。

2014-07-19

アガサ・クリスティー「ヘラクレスの冒険」


エルキュール・ポアロが自分のクリスチャン・ネームの由来であるヘラクレス、その12の難業に照らし合わせるような、12の難事件を解決してみせるという連作短編集。
本書が出版されたのは1947年ですが、それぞれの作品がストランド・マガジンに発表されたのは'39年から翌'40年にかけて。長編だと『杉の柩』あたり。この時期になると短編でも話の進め方が自然で、安心して読んでいられます。

純粋にミステリとしての出来からいうと「エルマントスのイノシシ」が、手の込んだ謎解きを楽しめる一編です。中心になっている仕掛けだけ取ればそれほどでもないのだが、演出がしっかりしているので、意外な効果をあげることに成功しているのだなあ。
「ディオメーデスの馬」は場面転換の鮮やかさが印象的で、女史の長編と共通するような趣向が楽しめます。トリッキーで、伏線もうまい。
「ゲリュオンの牛たち」もプロットだけを取り出せばなんということがないのだが、実に簡単な手で読者を手玉に取るのね。

シャーロック・ホームズ風の味付けが楽しいのが「ネメアのライオン」「ヒッポリュテの帯」あたりで、ヘイスティングズがいればもっと良かったかもしれない。
また、「アルカディアの鹿」「クレタ島の雄牛」にはちょっとロス・マクドナルドを思わせるところが。特に後者は、陰影豊かな描写や隠された構図など、実に締まった仕上がりです。

初期の短編集と比較すると形式に自由度があって、トリックに寄りかかりすぎることもなくストーリーテリングで読ませるものになっているかな、と。
題材や展開のバラエティも十分、一冊通して楽しめましたよ。

2014-07-14

ジョン・ディクスン・カー「三つの棺〔新訳版〕」


「探偵小説において、 "ありそうもない" がとうてい批判にならないことは指摘してよかろう。われわれは、ありそうもないことが好きだからこそ、探偵小説に愛着を抱くといってもいいのだからね」

云わずと知れた、であります。
新訳になっても複雑なプロットであることには変わりがないですが。今回読み返していて、色んな点で力がこもった作品だな、と。
導入からしてすごく締まっているのだ。カーは物語のはじめにハッタリをかますことが多いのだが、これはそれほど饒舌でないし、描写もくだくだしくない。大げさに怖がらせて見せよう、という態度がないのが、かえって迫力を生み出していると思う。
そして、以降に展開される途轍もなく魅力的な謎の数々。うむ、たまらんねえ。

しかし、なんと人工性の強いミステリであることか。小説構成そのものを使った前代未聞のミスリードもさることながら、その入り組んだ真相は(見事なものではあるけれど)行き過ぎて、逆に都筑道夫いうところの「モダーン・ディテクティヴ・ストーリイ」の要素すら感じられる。そして、この真相を読者に受け入れさせるためにこそ「密室講義」の章は用意されたのではないか。

遊戯性をクソ真面目に追求したといったらよいか。あまりに力作過ぎるので、カー入門にはかえって不向きかもしれませんが、黄金期の爛熟というものを強く感じさせられますな。

2014-07-07

Bee Gees / 1st


ビー・ジーズが英国に渡ってから、一枚目のアルバム。リリースは1967年で、サージェント・ペパーの一ヶ月ほど後。このアルバム以前は兄弟3人のグループだったのが、ここではオージー2人を加えてバンド形態を取っています。
以前、レフト・バンクについて「まさしくバロックポップと言えばこれ(他にどんなものがあるのかと訊かれると困りますが)」と書いたのだけれど、このアルバムもそうかな。サイケポップともいえそうですがドラッグっぽさは希薄(いや、僕もやったことはないけどさ)で、英国ロックの流行を上手く消化したという感じがします。実験的ではないような。

収録曲のうち個人的に好きなのはホーン・アレンジが格好良い "Red Chair, Fade Away" と、もろ「Revolver」の "In My Own Time" あたり。う~ん、あまりバロック・ポップじゃないな。
スロウの曲にはちょっとウェット過ぎるものがありますね。特に "I Can't See Nobody" のボーカルはやり過ぎのように思っていました。けれど何度が聴くうち、この歌いまわしはもしかしたらオーティス・レディングを意識しているのかな、と。それからはさほど気にはならなくなったな。
ビートルズの影響は大きいけれど、もっとストレートな表現といえましょうか。良いメロディの曲揃いです。


さて、2006年にリリースされたこのアルバムの2CDエディションにはステレオとモノラル両ミックスが収録されています。これが結構、印象が違うのだな。モノでは比較的に管弦は控えめであって、ベースが強調、よりバンドらしい感じがします。ステレオのほうが時代を反映したような華やかさがありますな(ときに大げさではありますが)。
また、一曲目の "Turn of the Century"、ステレオではテープがよれているような音の揺れがあるのだけれど(これはミックスの際にわざとやったらしい)、モノラルには無いのね。