2014-07-19

アガサ・クリスティー「ヘラクレスの冒険」


エルキュール・ポアロが自分のクリスチャン・ネームの由来であるヘラクレス、その12の難業に照らし合わせるような、12の難事件を解決してみせるという連作短編集。
本書が出版されたのは1947年ですが、それぞれの作品がストランド・マガジンに発表されたのは'39年から翌'40年にかけて。長編だと『杉の柩』あたり。この時期になると短編でも話の進め方が自然で、安心して読んでいられます。

純粋にミステリとしての出来からいうと「エルマントスのイノシシ」が、手の込んだ謎解きを楽しめる一編です。中心になっている仕掛けだけ取ればそれほどでもないのだが、演出がしっかりしているので、意外な効果をあげることに成功しているのだなあ。
「ディオメーデスの馬」は場面転換の鮮やかさが印象的で、女史の長編と共通するような趣向が楽しめます。トリッキーで、伏線もうまい。
「ゲリュオンの牛たち」もプロットだけを取り出せばなんということがないのだが、実に簡単な手で読者を手玉に取るのね。

シャーロック・ホームズ風の味付けが楽しいのが「ネメアのライオン」「ヒッポリュテの帯」あたりで、ヘイスティングズがいればもっと良かったかもしれない。
また、「アルカディアの鹿」「クレタ島の雄牛」にはちょっとロス・マクドナルドを思わせるところが。特に後者は、陰影豊かな描写や隠された構図など、実に締まった仕上がりです。

初期の短編集と比較すると形式に自由度があって、トリックに寄りかかりすぎることもなくストーリーテリングで読ませるものになっているかな、と。
題材や展開のバラエティも十分、一冊通して楽しめましたよ。

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