「探偵小説において、 "ありそうもない" がとうてい批判にならないことは指摘してよかろう。われわれは、ありそうもないことが好きだからこそ、探偵小説に愛着を抱くといってもいいのだからね」
云わずと知れた、であります。
新訳になっても複雑なプロットであることには変わりがないですが。今回読み返していて、色んな点で力がこもった作品だな、と。
導入からしてすごく締まっているのだ。カーは物語のはじめにハッタリをかますことが多いのだが、これはそれほど饒舌でないし、描写もくだくだしくない。大げさに怖がらせて見せよう、という態度がないのが、かえって迫力を生み出していると思う。
そして、以降に展開される途轍もなく魅力的な謎の数々。うむ、たまらんねえ。
しかし、なんと人工性の強いミステリであることか。
小説構成そのものを使った前代未聞のミスリードもさることながら、その入り組んだ真相は(見事なものではあるけれど)行き過ぎて、逆に都筑道夫いうところの「モダーン・ディテクティヴ・ストーリイ」の要素すら感じられる。そして、この真相を読者に受け入れさせるためにこそ「密室講義」の章は用意されたのではないか。
遊戯性をクソ真面目に追求したといったらよいか。あまりに力作過ぎるので、カー入門にはかえって不向きかもしれませんが、黄金期の爛熟というものを強く感じさせられますな。
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