2015-04-05

White Plains / The Deram Records Singles Collection


ホワイト・プレインズが1970~'74年に、英デラムよりリリースしたシングル両面をリリース順に収録したコンピレーション。これら以降にもいくつか小レーベルよりシングル・リリースがあるそうですが、それらは彼らがいったん解散したあとのものであり、メンバーが大分違っているらしい。
デラムでの彼らのプロデュースは全曲がロジャー・クックとロジャー・グリーナウェイが務めており(いくつかはふたりのどちらか単独)、斬新なところはありませんが、とにかくわかりやすいポップソングが楽しめます。

ホワイト・プレインズには以前から出ていたCDがあって、そちらにはファースト・アルバム丸ごとにデラムからのシングルA面曲は全て収録されています。そういうわけで今回、音源的に初CD化となるのはB面のものばかり9曲となります。セカンド・アルバム収録12曲のうち10曲がまとめて聴けるようになった、ともいえるのですが。
リマスターのほうはまあまあ、いいのでは。中域のしっかりした、バブルガム・ポップにふさわしいものという感じです。

また、今回のリイシューではライナーノーツがちゃんと調べた上のもので、価値があるように思います。メンバーの変遷やシングル毎のエピソードまで盛られており、ちょっと読み応えがありますよ。
はっきりしていなかったこのグループの出自についても書かれていまして、今までもフラワー・ポット・メンの末期を引き継ぐボーカル・グループとして知られてましたけれど。実際のところはフラワー・ポット・メンが解散したあと、彼らの未発表であった録音曲をデラム・レコードが勝手にホワイト・プレインズの名義で発売したところ、これが当たったということ。それで元メンバーたちが呼び寄せられた、といういきさつらしい(もっともトニー・バロウズはすぐに離れてしまいますが)。
で、その大ヒット曲が "My Baby Loves Lovin'" です。モータウンあたりを下敷きにしたと思しい楽曲に下世話なストリングスが乗っかった、英国MOR王道といった感じで。親しみやすいメロディと乗りの良さでぐいぐい押し切ってくれます。明るいキャラクターのボーカルも忘れてはいけないところですが、ライナーノーツによれば一般に信じられているのとは違い、この曲でリードを取っているのはトニー・バロウズではなくリッキー・ウルフということらしいですよ。

2015-03-30

青崎有吾「体育館の殺人」


三年前の鮎川哲也賞作品。文庫化に際して大幅に改稿されているそうであります。

密室殺人とフーダニット、いっそ潔いくらいにそれだけですな。
キャラクターはペラペラですけど展開はテンポ良く、読みやすい。探偵役はもったいぶることなく、気前良く推理を開陳し続けてくれるのでだれ場もない。
アニメどうこうはヴァン・ダインのペダントリーみたいなもんでしょ。古びてもかまわないし、逆に数十年後にはいい味になっているのではないか。

個人的にフェアプレイの謎解きにはどうしたって、点が甘くなってしまうのだが。
論理の飛躍に補助線が欠けているところがあって、ちょっと気になった。思いつき→調査→裏付け現る、という展開はご都合主義のような印象を受けてしまう。この手順を変えると探偵役の設定にうまく嵌らないのだろうか。
また、余詰めをどの程度やるか、というのも難しいところ。あっさり流せば細かい推理をしている部分との落差が目立つし、逆にあまりねちっこくやると流れが悪くなってしまう。結構、名の通っている作家でもここら辺りがうまくいっていないことがあるのだけれど、仮にも「平成のエラリー・クイーン」なら(本人が自ら名乗っているわけではないのだろうが)スマートに処理してほしいところ。

抜群に冴えた手掛かりを起点に、どんどんと転がっていくロジックが生み出すスリルと、その先に見えてくる意外な光景。あれですよ、論理のアクロバットってやつ。とりあえずそれがあれば充分だ。
凄く面白かった。ああ、氷川透が帰ってこないかな。

2015-03-29

Eugene Record / The Eugene Record


昨年の暮れ、英Expansionからユージン・レコードのソロが2in1でリイシューされました。ファースト「The Eugene Record」、セカンド「Trying To Get To You」とも海外では初CD化のよう。
僕の中では何となく、'70年代のシカゴ・ソウルにおけるユージン・レコードのイメージは、'60年代デトロイトにおけるスモーキー・ロビンソンのそれとだぶっている。ソフトな歌い口に、品が良くメロウで、ロマンティックな作風。グループのリーダーとして活動しながら、レーベルメイトのレコード制作にも裏方で貢献していて。ついでにいうと同業者と結婚した、という共通点もあるな。

さて、ファーストソロ「The Eugene Record」は1977年リリースで、プロデュースはユージン・レコード自身、アレンジはユージンとトム・トム84が担当。
このアルバム、サウンドの作り込みがかなりしっかりしていて、密室的といってもいいかも。大胆にシンセを鳴らしている曲があれば、非常に細かいアレンジが詰まっている曲あり、ボーカルにエフェクトがかかっている曲なんかもあって、下手をするとごちゃごちゃしてしまいそうなんですが、仕上がりは滑らかで美しく、下世話さを感じさせないものになっています。特にエレピや管の響きが良いですね。
アナログではA面にあたる前半はゆったりとしたミディアムが中心。中では浮遊感を湛えたサウンドの "Here Comes The Sun" が素晴らしく、エンディングの長いインスト部分など相当に格好いい。続く、いかにもシカゴらしい軽快な "Overdose Of Joy" も悪くないな。
アルバム後半スロウばかり4曲連続で、個人的な趣味からすると落ち着き過ぎなんですが、ひとつひとつはいいメロディのものばかり。甘いけれど、くどくはない節度が好ましいです。
全体を通じてはっきりとした美意識が感じられる一枚ですな。

翌年の「Trying To Get To You」でも同じようなスタッフで制作されているのだけれど、サウンドのほうはぐっと開放的なものに。独創性は薄れたものの、その分親しみやすさが増していて、より広い層にアピールしそうな感じ。
楽曲のほうもキャッチーでわかりやすいものが多く、特に2~4曲目にかけて、メロウさが先立つミディアムが続く流れが絶品。シャイ・ライツ的なフレーズをこだわりなく使っているのも吉と出ているよう。
アルバム全体を包む暖かい雰囲気も心地いい作品です。

2015-03-22

フィリップ・K・ディック「ザップ・ガン」


1967年発表作で、実際にはその三年前に書かれていたそう。
これも再読だ。そんなことばかりしていていいのか、と思わなくもないのだが。内容を覚えていないのだから、いいのだ、きっと。

時は2004年、地球は軍事的にふたつの勢力に分かれていた。アメリカに代表される西側とロシアを中心とした東側に。
西側に所属する兵器デザイナー、ラーズ・パウダードライはトランス状態になることで新しい兵器のアイディアを生み出していた。東側にも同じ役割を果たす人物がいて、両陣営は日夜、新たな殺傷兵器を開発することでしのぎを削り、対抗勢力を上回ろうとしていた。
と、人々は信じていたのだが・・・・・・。

ディックの作品ではよく、自分たちの生きている世界がまやかしではないか、というテーマが現れるが、この「ザップ・ガン」では幻想を維持している側の人間が中心となって描かれている。主人公であるラーズ・パウダードライは人々を偽っていることに対して、大きなプレッシャーを感じているのだ。だが、ラーズが自分から参ってしまう前に、本物の脅威が出現する。

元々が気楽に読み飛ばせる娯楽SFを一丁、という要請に合わせて書かれた作品らしいのだが、そこは脂の乗っている時期のディック、奇妙なガジェットが盛り込まれ、特に後半部分に入ると全く予想だにしなかった唐突な展開が次から次へと待っている。ちょっと前に「聖なる侵入」なんて読んだせいもあるが、いやあ面白いねえ。

思いつきをそのまま放り込んだような要素が見受けられ、なぜそうなったのか? という説明がまるですっこ抜けている。また、奇妙な結末はそれまでの流れとはそぐわないというか、取ってつけたような感もある。
それでもディックでしかありえない味が堪能できるし、読んでいる間は楽しいB級SFでありました。

2015-03-20

アガサ・クリスティー「葬儀を終えて」


「だって、リチャードは殺されたんでしょう?」
アパネシー一族の当主、リチャードが急逝した。その葬儀後、屋敷では遺言状が公開されて、金銭的に困っていた縁者たちの間にはこれでひとまず安心、といった表情が広がっていた。そんな中、末妹であるコーラの発言が波紋を呼ぶ。
翌日、コーラの惨殺体が発見された。


1953年のエルキュール・ポアロもの長編。これは大昔に一度読んでいるはず。若い頃はミステリの有名どころを当たっていくのに、文春文庫の『東西ミステリーベスト100』を参考にしていて、その200位までのうちにこの作品も入っていたのだと思う、確か。
まあ、内容は殆ど記憶に残っていないんですが。

冒頭からテンポ良く話は進んでいきます。適度なスリルを伴いながら、分かり易いかたちで疑惑が掻き立てられていく。黄金期を思わせるような、いかにもミステリらしいミステリという雰囲気で。登場人物は多めだけれど、すぐに馴染んでしまえるのも流石であります。
また、ミスティフィケーションによる盛り上げも楽しい。事あるごとに目撃される修道女は事件にどんな関係があるのか? 葬儀を終えた後の集いでの違和感とは? クライマックス前の場面で、鏡の中には何が映っていたのか?

メインのアイディアはクリスティ作品では既にお馴染みな種類のものですが、いいときの女史の作品がそうであるように、非常に大胆な使い方をされています。アンフェアになることを恐れていないというか。よく考えれば実行には相当無理のある犯罪計画を、紙上のものとしてはしっかりと成立させています。
ひとつ大きな手掛かりも転がされているのだが、その意味を気取らせない書き方もお見事。後から考えれば、なるほどなあ、と。

クリスティを多く読んでいない人ならもっと楽しめるでしょう。密度の濃い作品でした。

2015-03-15

アンナ・カヴァン「氷」


1967年発表の、文明社会が氷によって征服され終焉していくというお話で。取り掛かる前はぼんやりと、J・G・バラードの『結晶世界』のようなものを予想していたのだが。

読み始めて思ったのは、なんかもう、やりたい放題だな、ということ。辻褄合わせや筋道の説明に囚われない作品であります。誤解を恐れずにいうと、山無し、落ち無し、意味無し。
基本的に一人称の語りなのだけれど、何の前触れもなく別の視点からの描写や物語がはじまり、また何事もなかったように元の文脈に戻る、ということが繰り返される。この挿入される部分は事実起こった(あるいはこれから起こるであろう)ことなのか、それとも「私」の妄想の産物なのか読んでいて判断がつかない。

作品構造をつかむ取っ掛かりは、ないこともない。
「いくつもの空間を同時に動いているというような奇妙な感覚があった」
多層化した語りを採用することで通常では複雑になってしまう手続きを省いて、状況をさまざまな面から描こうとしている、ということだろうか。
あるいは溢れ出るイメージを合理性という検閲を通さず、そのまま提示しているような気もする。

いや、解釈などするな、受け入れろ。ましてアレゴリーなどもってのほかだ。

カタルシスが訪れるわけでも、壮大なヴィジョンとやらが立ち上るわけでもない。
執拗に描写されながら、奇妙にリアリティを欠いた氷の世界。そして、その中である実感を希求する人間の物語。

2015-03-14

The Mike Cotton Sound / The Mike Cotton Sound (eponymous title)


もしかしたらキンクスのファンのうちには「Muswell Hillbillies」に絡めてその名を記憶しているひともいるかもしれない、マイク・コットン・サウンド。1950年代終わりからトラッド・ジャズを演奏していたグループが母体だそうで。それが、ビート・グループが台頭してきたころにはぐっとR&B寄りの音楽になっていたとのこと。編成は4リズムに管3本が基本のよう。
そんな彼らの唯一のアルバムにボーナストラックとしてシングル曲や未発表ライヴを加えた一枚、英RPMからのリイシューです。

で、アルバム「The Mike Cotton Sound」ですけど、リリースは1964年で。これくらいの年代は結構微妙なんすね。古びてしまっているか、あるいは現在に聴いても充分格好いいか、っていう端境期じゃないかと個人的に思っています。
収録されているのはわりと有名な曲のカバーが多くて、うちインストでは、なにより雰囲気がいい。ジャズやR&Bの形式をなぞった、いわゆるモッド・ジャズってやつだけれど、マンフレッド・マンやブライアン・オーガーのインストにあるような洒脱なものではなく、ゴツゴツして熱のこもった演奏で、そこに(後にアニマルズに加入する)デイヴ・ロウベリーの鍵盤によってポップな潤いが加えられています。それほど器用じゃないが、クラブを揺らすことならまかせとけ、という印象です。
一方で、いくつかあるボーカル曲は普通のマージービートのようで、いまいち。ただ、"How Long Can This Go On" という曲はジョージィ・フェイムを思わせる出来で悪くない。

ボーナストラックではさまざまなレーベルにわたって出されたシングル曲が完全網羅されています。シングルは大体、年一枚くらいのペースで出ていたよう。
1965年にベース/ボーカルとして、後にアージェントやキンクスにも参加するジム・ロッドフォードが加入します。ロッドフォードはグループ内では初の、ジャズ畑出身ではないプレイヤーだったそうで、ロウベリー&ロッドフォード作の曲は、凄くポップなものになっています。
さらにしばらくするとルーカスという黒人シンガーが加入して、今度はぐっとソウル色が強まります。艶のある滑らかな声で、軽快なダンスナンバーにはぴったりという感じ。特に "Harlem Shuffle" のカバーはなかなか。

スタイルの統一感はあまりないけれど、通して気持ちよく聴けます。イギリスにおけるライヴの現場、そこでの流行の変化を反映しているようで、いいんじゃないでしょうか。