2015-03-20

アガサ・クリスティー「葬儀を終えて」


「だって、リチャードは殺されたんでしょう?」
アパネシー一族の当主、リチャードが急逝した。その葬儀後、屋敷では遺言状が公開されて、金銭的に困っていた縁者たちの間にはこれでひとまず安心、といった表情が広がっていた。そんな中、末妹であるコーラの発言が波紋を呼ぶ。
翌日、コーラの惨殺体が発見された。


1953年のエルキュール・ポアロもの長編。これは大昔に一度読んでいるはず。若い頃はミステリの有名どころを当たっていくのに、文春文庫の『東西ミステリーベスト100』を参考にしていて、その200位までのうちにこの作品も入っていたのだと思う、確か。
まあ、内容は殆ど記憶に残っていないんですが。

冒頭からテンポ良く話は進んでいきます。適度なスリルを伴いながら、分かり易いかたちで疑惑が掻き立てられていく。黄金期を思わせるような、いかにもミステリらしいミステリという雰囲気で。登場人物は多めだけれど、すぐに馴染んでしまえるのも流石であります。
また、ミスティフィケーションによる盛り上げも楽しい。事あるごとに目撃される修道女は事件にどんな関係があるのか? 葬儀を終えた後の集いでの違和感とは? クライマックス前の場面で、鏡の中には何が映っていたのか?

メインのアイディアはクリスティ作品では既にお馴染みな種類のものですが、いいときの女史の作品がそうであるように、非常に大胆な使い方をされています。アンフェアになることを恐れていないというか。よく考えれば実行には相当無理のある犯罪計画を、紙上のものとしてはしっかりと成立させています。
ひとつ大きな手掛かりも転がされているのだが、その意味を気取らせない書き方もお見事。後から考えれば、なるほどなあ、と。

クリスティを多く読んでいない人ならもっと楽しめるでしょう。密度の濃い作品でした。

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