2015-03-15

アンナ・カヴァン「氷」


1967年発表の、文明社会が氷によって征服され終焉していくというお話で。取り掛かる前はぼんやりと、J・G・バラードの『結晶世界』のようなものを予想していたのだが。

読み始めて思ったのは、なんかもう、やりたい放題だな、ということ。辻褄合わせや筋道の説明に囚われない作品であります。誤解を恐れずにいうと、山無し、落ち無し、意味無し。
基本的に一人称の語りなのだけれど、何の前触れもなく別の視点からの描写や物語がはじまり、また何事もなかったように元の文脈に戻る、ということが繰り返される。この挿入される部分は事実起こった(あるいはこれから起こるであろう)ことなのか、それとも「私」の妄想の産物なのか読んでいて判断がつかない。

作品構造をつかむ取っ掛かりは、ないこともない。
「いくつもの空間を同時に動いているというような奇妙な感覚があった」
多層化した語りを採用することで通常では複雑になってしまう手続きを省いて、状況をさまざまな面から描こうとしている、ということだろうか。
あるいは溢れ出るイメージを合理性という検閲を通さず、そのまま提示しているような気もする。

いや、解釈などするな、受け入れろ。ましてアレゴリーなどもってのほかだ。

カタルシスが訪れるわけでも、壮大なヴィジョンとやらが立ち上るわけでもない。
執拗に描写されながら、奇妙にリアリティを欠いた氷の世界。そして、その中である実感を希求する人間の物語。

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