2015-05-31

Dee Dee Warwick / I Want To Be With You/I'm Gonna Make You Love Me


1967年にマーキュリーよりリリースされた、ディー・ディー・ワーウィックのファーストアルバム。
内容は'65年からそれまでに出されたシングル曲の寄せ集めです。
プロデュースは全10曲のうち3曲がジェリー・ロス、それ以外はエド・タウンゼンドが担当。

制作時期に幅があるためにアルバムとしての統一感は薄く、良く言えばバラエティに富んでいます。特にオープナーの " I Want To Be With You" はミュージカル曲のせいか、あまりソウル的な感じがしない歌唱であって。サンレモ音楽祭とかユーロヴィジョン・コンテストに出品しそうな勢いの仕上がり。
また、もうひとつのタイトル曲である "I'm Gonna Make You Love Me" は後にテンプス&スプリームスで取り上げられますが、すでに基本的なアレンジはここで出来上がっています。
他にはキング&ゴフィン作のスロウや、モータウンを意識したようなミディアム、ラテン的な味付けの曲などもあり、どれもしっかりと作られていて愉しく聴けるものです。
個人的なベストは "We're Doing Fine" という曲。作曲・アレンジともにホレス・オットが手掛けた軽快なポップソングで、静と動のコントラストを感じさせるアレンジがちょっとバカラックぽく、いいフックになっています。

ディー・ディー・ワーウィックのボーカルは力強さと品の良さのバランスがとても好みなのです。この時代はまだ二十代はじめとあって、まっすぐな歌唱がときに硬さも残すものではありますが、それもひっくるめてとてもチャーミング。
なお、英SoulMusic Recordsからのリイシューではボーナストラックとしてシングル・オンリーのものが7曲追加されています。特にいいと思ったのはこれぞジェリー・ロス、という感じの洒落ていてメロウな "We've Got Everything Going For Us"。また、若きギャンブル&ハフが手掛けた "I'll Be Better Off Without You" がドラマティックで、これも凄く出来がいいですよ。

2015-05-23

アガサ・クリスティー「死への旅」


世界のさまざまな場所から何人もの科学者たちが次々と失踪していた。鉄のカーテンの向こうへと誘拐されたとも考えられるのだが、確かな証拠は何も無い。だが、英国情報部のジェソップはわずかな可能性に賭けて、作戦を開始する。
一方で、娘を病気で亡くし、浮気性の夫と別れたある女性がいた。彼女は遠くイギリスを離れた地、モロッコで自身の命を絶つつもりなのだ。ホテルの自室で多量の睡眠薬を飲もうとした矢先に、その部屋に侵入してくる者があった。


1954年発表のノンシリーズもの長編。
冒険スパイ小説という感じのもので、クリスティのこの傾向の作品がだいたいそうであるように、全世界を巻き込むどでかい悪事が企まれているのに細部がすっこぬけいて、およそリアリティは皆無。
こちらもその辺りは読む前から判っているつもりだったが、いや、なかなか突っ込み所は多い。田舎の村を舞台にした作品で有効だった手段を、そのまま世界規模の事件でも同じように使っている、という感じさえする。
さらに、ドキドキハラハラ編のはずが、本作では本当に危険な事件は何も起こらないように見える。ヒロインの感情の高まりも序盤がピークであって、あとは緩やかな不安が続くのみだ。
物語の起伏が乏しい上、道中にばら撒かれるサプライズもやや小さめ。読みやすいけれどスリラーとしては凡作。

なのだが、さて、この結末はいかに。これを取ってつけたものと感じるか、あるい大掛かりな誤導も決まった鮮やかな背負い投げと見るか。辻褄は合っているが、伏線が少ないようでもあるし、う~ん。

2015-05-22

スタンリイ・エリン「特別料理」


米本国では1956年に出版されたスタンリイ・エリンの第一短編集。EQMM誌上に発表された十短編が年代順に収められています。原題は "MYSTERY STORIES" で、そのシンプルさは作品に対する自信の現われでもあるように思える。
エラリー・クイーンが熱の入った序文を書いていて、その文中でこの『特別料理』の〈クイーンの定員〉入りを宣言しているのだから、なんだか凄い入れ込みようだ。

デビュー作である「特別料理」がやはり頭ひとつ抜けている。作中の秘密は見えみえなのに、こんなに魅力的なのは何故だろう。表面的には事件は起こらないまま、暗示を積み重ねるだけで成立している物語で、その手触りはジェントルでブラック。店の主人、スピローの奇妙な話し方も印象的だ。
店内に肖像が飾られている「あの作家」とはアンブローズ・ビアスのことのよう。

その他の収録短編を読むと、エリンというひとはそんなに奇矯なアイディアで勝負するタイプではないように思える。しかし無駄のない語り口、その純度の高さは途轍もないもので、ぐいぐいと引き込まれていく。また、作品のオチは仮に先読みできるものであっても、その処理というか書き振りが洒落ていたり、あるいはそれによって意外な面を浮かび上がらせることで余韻を残すものばかりである。

そして、巻末に置かれた「決断の時」はリドル・ストーリーでありながら、どちらを選んだのかは実は問題ではない、そもそも正解がないからこその必然としてのリドル・ストーリーといった感じを受ける。結末がないにもかかわらず、描くべきものは全て描き切られているようでもある。極限の状況が生み出すゴシック的な恐怖も忘れがたい。

もしかしたらミステリしか読まないような人には向いていないかもしれません。
いかに語るか、がおそろしく高いレベルにある作品集でありました。

2015-05-18

Donna Loren / These Are The Good Times: The Complete Capitol Recordings


1960年代米国のアイドル、ドナ・ローレン。彼女が1964~66年にキャピトルに残した音源のコンプリート盤です。唯一のアルバム「Beach Blanket Bingo」にシングル・オンリーのもの、さらには未発表のものまで収録されています。

キャピトルでのレコード制作、そのはじめの頃はプロデュースをデヴィッド・アクセルロッド、アレンジをH.B.バーナムが担当。当時、ドナ嬢はまだ17歳でしたが、既に堂々とした歌いっぷりであります。
R&Bを隠し味にしたようなポップソングが目を引く中でも、キング&ゴフィン作の "Just A Little Girl" がひとつ抜けた出来で。リトル・エヴァのカバーですが、フィル・スペクターの影響を感じさせるアレンジが巧くはまっています。

'65年になると唯一のアルバム「Beach Blanket Bingo」が制作されます。これはドナも出演していた同名映画の挿入歌を取り上げた作品で、劇中でホンデルズやフランキー・アヴァロン、アネットらが歌っていた曲を、アレンジも新たにドナのボーカルで聴くことができます。
しかし、単独のアルバムとしてみると、正直それほどの出来ではないかな。素材のミスマッチを感じてしまう曲や、映画のコンテキストから離れてしまうと凡庸に響くものもあって。オープナーに当たる "Cycle Set" は格好いいサーフ/ホット・ロッド・ナンバーで、このアルバムの中ではベストに思えるけれど、それでもホンデルズのヴァージョンのほうに分があるように感じます。また、"It Only Hurts When I Cry" も、映画でドナ自身が歌っていたスロウなヴァージョンのほうがずっといい。

ジャケットはいいのだけど

同年六月のセッションからは制作チームが変わります。プロデュースがスティーヴ・ダグラス、アレンジがジャック・ニーチェあるいはビリー・ストレンジ。サウンドのほうはぐっと繊細な印象のものに。個人的にはこの時期のものが一番好みですね。
特に気に入ったのはロネッツの(当時は未発表曲)カバー "Woman In Love (With You)" で、ややすっきり目ではあるものの、これはほぼウォールズ・オブ・サウンド。本家と同じスタッフなので、当たり前のように完成度が高い。
また、ボー・ブラメルズがバックを務めた "It's Gotta Be" というのがフォークロック風味であって、これも悪くない。

'66年にはキャピトルでの最後のシングルが出されます。プロデュースはアル・ディ・ローリー、アレンジはジーン・ペイジ。いいのだけど、洗練されすぎていてもはや一体どういう客層に向けて作られたのだろうか、という気もする。

ともあれ、ガール・ポップのファンなら聴いて損はないとは思いますし、特にジャック・ニーチェによるジャッキー・デシャノンあたりの仕事が気に入っているひとなら、いいんじゃないですかね。

2015-05-09

Curtis Mayfield / Super Fly


久しぶりに聴いたら、やっぱり凄かった。カーティス・メイフィールド、ライヴ盤を除けば三枚目のソロ・アルバム、1972年のリリース。

カーティスの他のアルバムと違う点で一番大きいと思われるのは、これがコンセプト・アルバムだということ。勿論、そもそもはサウンドトラックなのだけど、映画の内容にカーティス自身の問題意識が触発されることで制作されたわけだ。ゆえに、カーティスの持つ音楽性の幅がある程度絞られ、全体を通じた統一感がとても高いものになっている。アタマからケツまで一切の弛みなく、スロウであっても同じように持続していくテンション。気を抜くところがないため、一枚通して聴いていると結構疲れる。

また、サウンドにおける管弦の比重がとても高いのだけれど、ジャジーなセンスが強く感じられるのも本作の特徴であって、これがドラマティックでシャープな手触りに結びついている。小編成コンボによる演奏の "Pusherman" を除いた全曲で冴え渡るアレンジはジョニー・ペイトの仕事だ。ゴージャスであるけれど、甘さに流れていないのが素晴らしく、インスト曲でも歌入りのものと同じ空気感を維持しているのも見逃せないところ。
ただ、二曲のインストはジョニー・ペイトによれば自分がメロディを書いたそうなのだが、盤にはカーティス作とクレジット。ジョニー・ペイトが自分の権利を主張したところ、逆にカーティス側から訴えられ、結果として長年の仕事仲間であった二人は袂を分かつことになってしまった。

カーティス・メイフィールドの作品のうちで、ソウル・ミュージックとして考えればもっといいのがあるかもしれないのだが、「Super Fly」にはそういったものを超えた勢いが宿っているように感じる。ポップチャートで二曲がトップテン入りしたことからも、時代としっかりリンクしていたと言えそうではあります。

2015-05-05

クリスチアナ・ブランド「猫とねずみ」


女性雑誌の記者、カティンカは休暇で故郷ウェールズに帰ったおりにふと思いついて、自分の雑誌に手紙をくれる読者であるアミスタを訪ねることにした。やっとのことで辿り着いたその屋敷は、村からは川で隔てられた山の中腹に孤立して建っていた。だが、そこに住む人々はアミスタなどという者は知らないという。一方で、何かが隠されているような気配もあったのだが・・・・・・。


1959年発表作、再読です。なんでもこの作品の続編が訳出されるということなんで、どんなだったっけ、と記憶を新たにするべく引っ張り出しました。

作者ブランドが前書きで「懐かしき古風なミステリー・メロドラマ」と書いているとおり、謎解きのミステリではなく、巻き込まれ型というか、おせっかいな女性が自分から怪しいところに首を突っ込んでいくサスペンスといったところ。特に序盤は時代がかった、シャーロック・ホームズにもこんな話があったなあ、という展開。
しかし、そこはブランド、プロットは一転・二転し、推理の妙もちゃんと用意されております。更には人物像がころころと入れ替わる描写など、疑惑と緊張で引っ張っていきます。そして勿論、アミスタとは誰なのか? という謎も。
終盤に入ると、思いがけない展開に伴って、伏線が次々に浮かび上がっていく。犯罪者像は強烈であるし、皮肉なテイストも流石であります。

ロマンス色が強く、ブランドの作品としては並というところですが、アイディアの密度は非常に高いですね。
やっぱり面白いや。惚れ直しました。

2015-05-03

Montage / Montage (eponymous title)


レフト・バンクを脱退したマイケル・ブラウンが、自分の音楽を演るために地元ニュー・ジャージーのワールプールというバンドをスカウトしてきて作ったのが、このモンタージュ。ブラウンはグループのメンバーになったわけではなく、作曲者・プロデューサーという関わりかただったのですが。
ブラウンの父親のコネかなんかでローリー・レコード(ディオンやロイヤル・ガーズメンのあのローリーです)と契約すると1968年に二枚のシングルを、翌年にそれらの曲を含むアルバムをリリースしました。

マイケル・ブラウンがワールプールを気に入ったのはその歌声だったとのことで、殆どの曲の演奏はスタジオ・ミュージシャンによるものらしい。この辺りはレフト・バンク時代と同じです。
そのサウンドのほうは鍵盤を中心にした演奏に、ちょっとクラシック入った管弦が加わるという形が基本のソフトなもの。そこに麗しいボーカル/コーラスが乗っかるという、まあ、レフト・バンクの延長線上にあるものなんですが、もっとすっきりとした手触りで、エコー処理もデッドな感じ。このアルバムの制作されたのは1968年なわけで、さすがにもうサイケポップではないということですな。ただ、生々しい手触りはいいんだけれど、レフト・バンクと比べてしまうとプロダクションが簡素に感じられる瞬間もなくはない。
ブラウンの手による楽曲も憂いを帯びた作風は健在、いいメロディが揃ってます。実はレフト・バンクの録音が残っている "Desiree" と "Men Are Building Sand" なんかも取り上げていて。まあ、結局はそういうプロジェクトなんだな。

レフト・バンクのデビュー・アルバムにあった要素が、マイケル・ブラウン脱退後のセカンド「Too」とこのモンタージュに分かれた、と考えればしっくりくる。個人的には「Too」よりこっちのほうが好みです。