2016-07-09

Van Morrison / ..It's Too Late To Stop Now… Volumes II, III, IV & DVD


「..It's Too Late To Stop Now…」はヴァン・モリソンが1973年に行ったライヴを収録した2枚組アルバムで、翌'74年にリリースされました。そして、そのアルバムに入らなかったパフォーンスを新たにマルチトラックからミックスして収録したのが、最近になって出たセット「Volumes II, III, IV & DVD」であります。
これがいいんですよ、凄く。
テープの保存がよかったのか、とてもクリアで臨場感があるサウンドです。ヴァン・モリソンはライヴ・アルバムを制作するにあたって、スタジオでの演奏の手直しを一切させなかったそうで、なるほど生々しい録音だ。
ライヴ全体に肯定的な雰囲気が横溢していて、ゼム時代のレパートリーでも攻撃性は感じさせず、余裕のある表現になっています。

オリジナルの「..It's Too Late To Stop Now…」も今回、同時に
リイシューされましたが、リマスターはされていないような

ディスク1は'73年5月23日、ディスク2には6月29日にロサンゼルスで行われたライヴからそれぞれ15曲ずつ収録されていて、この2枚の間では曲目に重複はありません。ただし、ディスク2の "Into The Mystic" だけはオリジナルの「..It's Too Late To Stop Now…」に収められているのと同じ演奏のよう(ミックスは異なりますが)。
ディスク3は'73年7月23~24日にロンドンで行われたライヴから構成されていて、これも15曲入り。
同じ時期のライヴがこれだけの量というのは多すぎるように思うかもしれませんが、同じ曲を演っても歌いまわしが一回一回異なっているし、曲によってはアレンジや構成にも変化が付けられています。中でも "I've Been Working" が本格的なファンクになっているのが聴きものでありますね。


DVDは7月24日のロンドン公演、当時BBCで放送された映像で9曲入り、モノラル・ミックスです。
画質は鮮明とは言いがたいですが、ストリングス・セクションを加えた大所帯の強力さ、"Domino" でのソウル・レヴュー風の趣などがより伝わってきます。また、ヴァン・モリソンのキレの悪いステージ・アクションなどはやはり映像ならではの楽しさです。

2016-07-03

アガサ・クリスティー「カリブ海の秘密」


「殺人犯のスナップをごらんになりますかな?」
甥であるレイモンドのすすめで西インド諸島へ療養にやってきたミス・マープルは、滞在先のホテルで話好きの退役少佐から現代の青ひげ、ともいうべき男についての逸話を聞く。だが、その男の写真をマープルに見せようとしてした少佐は、何かを見つけたような表情を浮かべ、いきなり話題を変えてしまう。そして、その夜のうちに少佐は亡くなった。


1964年に発表された長編です。
扱われているのは、旅行先のホテルに集まった人々の間で起こる殺人事件。このタイプの作品は以前にもいくつかあったと思うのですが、それらに比べるとずいぶんと落ち着いた雰囲気です。複数の夫婦がいて、不倫が仄めかされているのですが、激しい感情の高ぶりなどはありません。このあたりクリスティがすでに70歳を過ぎていたこともあるのでしょう。

ミステリとしては手がかりに乏しく、有力な容疑者もなくて、誰が犯人であってもおかしくない、という感じ。もっとはっきり言うと、マープル以外の人間が推理しても真相に到達できるようにはなっていません。この時期のクリスティの作品はフェアプレイの謎解きを構築することに、もはやそれほど頓着していないという気はします。

派手さ・けれんはないもののリーダビリティ、サスペンス、意外性、そのどれもがほどほどのレベルにはありますね。
全体としてミス・マープル大活躍編、といったところが読みどころかしら。

2016-06-19

コードウェイナー・スミス「アルファ・ラルファ大通り」


人類補完機構全短編、その第二巻です。
第一巻である『スキャナーに生きがいはない』には15編が収録されていたのに対し、こちらは7編とやや長めのものが多いかな。今回、初訳となる作品はありません。
ただし、『スキャナー~』には初期の習作やスミスの死後に夫人が完成させたものもあったのに対して、こちらは1961~66年に発表された短編で固められていて、その密度の高さはただごとではありません。ひとつとして落ちるものは無い、と思います。

中では「クラウン・タウンの貴婦人」が、一番分量が多くて読み応えがあります。古典的な物語の枠組みを利用しながら、臆面もないドラマを盛り上げていく。とても残酷であり、そして強い感情的な高まりを呼び起こす作品だ。
また、「ショイヨルという名の星」では『スキャナー~』に収録されていた「スズダル中佐の犯罪と栄光」のスズタルが再登場。作品内の時代では「スズタル中佐の~」のほうが3000年ほど先行しているようだけれど、実際に発表されたのはこの「ショイヨル~」のほうが先なのだな。

この作品集での年代としては長編『ノーストリリア』のそれをまたいでいるので、久しぶりに『ノーストリリア』も読み返そうかな。
さて、最終巻にあたる『三惑星の探求』はいつ出るかわからないけれど、これまで未訳であったものも収録されるので、気長に待ちたいですな。

2016-06-14

The Kinks / Everybody's In Show-Biz


「Everybody's In Show-Biz」(1972年)のレガシー・エディションが出ました。ディスク1はオリジナルを2in1で収録、ディスク2は未発表のものなどで固められています。
キンクスのRCA~Arista時代のカタログはVelvelから出たSACDハイブリッド盤で揃えていたのですが、「Everybody's In Show-Biz」についてはボーナストラックが入った代わりに本編が微妙に削られてしまっていました。
そういうこともあって、待望のリイシューです。

といっても正直、この作品にはどうも中途半端という印象があるのです。
アナログ1枚目に当たるスタジオ録音は後の演劇的なものへの過渡期といった感じ。収録曲では "Sitting In My Hotel" と "Celluloid Heroes" のふたつのスロウが抜きん出ていい。また、管楽器の使い方など意外にカラフルなところが見られるし、カントリーやR&Bに加えて "Supersonic Rocket Ship” のカリプソ風味などバラエティには富んでいる。"Hot Potatoes" やデイヴ作の " You Don't Know My Name" はロニー・レイン&スリム・チャンスのような味わいがある。その一方で、わかりやすいポップソングが見当たらず、全体としてとらえるとやや地味なのは否めない。
さらに、2枚目のライヴがいまひとつなのだな。編集にはぶつ切りのところが多く、雰囲気が持続しないようで、あまり気持ちよくない。ライヴ盤というより、既存曲を新たなアレンジで聴かせて、当時のキンクスの方向性をはっきり示すという趣旨だったのもしれないが。


今回のディスク2には13曲のライヴと未発表トラック4曲が収録されています。
ライヴのほうはオリジナルに収録されたものの前日の演奏なのですが、今まで抱えていた不満がかなり解消された思いです。ミックスは分離よく聴きやすいし、曲間のつなぎも自然で、ひとつのショウとしての流れを楽しめるものになっていますよ。
一方、スタジオ録音の中では未発表曲の「History」がなかなかの佳曲で、あまりいじりまわしていないアレンジもいい塩梅でありますね。

2016-06-08

The Move / Something Else From The Move


1968年のライヴ盤、英Esotericからのリイシューです。
元々は5曲入りのEPで、ミックスはモノラルでした。当時の技術的な問題からか、録音されたボーカルの音量が安定しておらず、曲によってはスタジオで歌い直されたそう。
2008年に出たボックスセットではこのときの録音から新たに12曲がステレオ・ミックスで収録され、差し替えがあったボーカルパートも元のものに戻されました。

今回リリースされたのはボックスセットで登場したステレオ12曲に、オリジナルEP全曲を加えたものであって、初登場となる音源はありません。ですが、EPからの曲はオリジナル・モノラル・マスターからの新規リマスターとなっています。
改めて聴いてみて、音質は置いて、この時代のライヴ録音としてはバランスがいいほうだとは思いました。

ファンクラブ向けのニューズレター
「ムーヴのライヴレコーディングに参加してみないかい?」

さて、ここに収められたライヴはファースト・アルバムのリリース前後に行われたもので、曲のアレンジにはサイケ・ポップ風なところが濃いけれど、演奏のほうは結構ワイルド。ロイ・ウッドのギターはワウ踏みまくりだ。複雑な構成を持つ曲であっても、ひたすらにぶっ飛ばしていく展開が痛快です。スタジオ録音ではヘヴィな面を見せても、これほどまでに荒々しさや勢いを感じさせることは無かった。
あえて近いものというと、ザ・フーになるかな。

2016-06-04

アガサ・クリスティー「複数の時計」


ある教師の家に派遣されてきたタイピストのシェイラ。依頼者が留守であることから、彼女は居間で待っていることにした。時刻の合っていない時計がいくつも置かれているその部屋で、やがて彼女は恐ろしいものを発見してしまう……。


1963年に発表されたエルキュール・ポアロもの長編。ポアロが登場するのは物語が半ばになってからで、それ以後も出てくる場面は余り多くなく、安楽椅子探偵といった役割です。中心になって描かれているのは諜報部に属する青年と警官の捜査で、そのせいでスリラー味が強く感じられます。
この作品、はじめのうちは凄く面白いのです。語りはいきいきとしているし、不可解な事件がつるべ打ちであって、ミステリとしての引きは充分以上。
また、いったん片付いたと思われた事案が崩れ、その後に新たな事件が起こるという展開も良いです。

しかし、最後まで読むと、やはり歳をとってからのクリスティは、作品を細部まで作りこむことができなくなっていたのだなあ、と思ってしまった。
犯人の推理をすることは読者にとっても可能なのだけれど、それ以外の部分があまりに手掛かりに乏しい。ある古典的な大技を使っているのだが、あまりに雑なやり方であって、ちょっとあきれてしまった。
物語結末でのツイストは時代に対応しているようで、悪くないとは思うのだけれど。

大風呂敷を広げて、解決は平均未満という感じでした。
ポアロを出さないでおけば謎解きにそれほど期待せずに、これでも納得したかも。

2016-06-02

The Independents / Just As Long: The Complete Wand Recordings 1972-74


シカゴのボーカル・グループ、インディペンデンツがSepter傘下のWandに残した音源のコンプリート集。英Aceからのリリースです。
収録曲のうちに未発表だったものはないのだけれど、彼らのセカンド・アルバムはこれまでリイシューされていなかったこともあって、シングル・オンリーのものも加えてまとめられたのは喜ばしい。

インディペンデンツというグループはソングライター・チームであるチャック・ジャクソンとマーヴィン・ヤンシーが中心になって結成されました。ライナーノーツによれば、ライヴ活動を好まなかったヤンシーは最初のシングルがヒットしたあと、表面的にはグループから脱退したのですが、レコーディングには引き続き参加していたそうであります。

力のあるボーカルにしっかりしたコーラス。メロディは'60年代っぽいテイストが強くて好みなのだけれど、あれ、これどこかで聴いたことのあるぞ、みたいなものもちらほら。それらのひとつひとつをとってみると、突出した個性を感じさせるものではありません。しかし、とてもバランスがいいのですね。メロウなサウンドを背景にして、よく映えている。
アレンジはトムトム84が担当していて、シカゴ・ソウルにややデトロイトっぽいニュアンスを加えたものといえましょうか。鍵盤の利かせ方が洒落ています。
曲調としてはスロウが多いのだけれど、風通しがよくって、続けて聴いていても飽きがこない。

彼らの出したシングルの多くはR&Bチャートで上位に入っていて、そこそこは売れていたのですね。しかし、レコード会社の資金繰りがうまくいかなかったせいで解散してしまったよう。
ところで、彼らの曲のうちいくつかの作曲者は「Maurice Barge - Jimmie Jiles」になっているのですが、このクレジットを他では見ないことから、ライナーノーツではそれらもジャクソンとヤンシーが書いた曲だ、と断言しています。実際どうなのでしょうかね。