「超人的な力と鋭い頭脳で難事件を解決する、黒服の私立探偵。ただし営業事件は夜間のみ。その正体は―」
特異な名探偵、カーデュラものの短編は全部で8作しか発表されていないようで、それを「全作収録した世界初の完全版〈カーデュラの事件簿〉」ということです。個々の作品は全て既訳があるものだけれど、それがまとまったことに価値があるのでしょう。実際、これはひとつひとつ単独で読むより面白いと思います。
クールな一人称で語りながらもユーモラス。そして、ちょっとした気付きから意外な解決へとたどり着くという、ミステリとしての出来も上々で、ひとつとして落ちるものがないのは大したもの。
もっと読みたい、となるのは当然でありますが。そもそも、思っても見ないような意外なオチが身上であるのがこの作者で、それがシリーズ探偵ものとなると縛りがかかり書きにくいと想像され。さらに、どの作品もミステリとしての捻りの中にカーデュラの特異な設定をうまく生かしたものになっているので、マンネリを避けようとすれば量産は利かないものだったのでしょう。
カーデュラものだけだと200ページにも満たないためか、後半にはノンシリーズの短編5作が収録されています。どれも奇妙な設定のクライムストーリーで、ジャック・リッチーという作家のショーケースになっているのでは。
ワン・アンド・オンリーの個性をたたえながら、肩の凝らない軽い読み物に仕上がっているのが素晴らしい。洒落ていて上質のエンターテイメントとはこのことなり。
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