2011-03-13

アガサ・クリスティー「アクロイド殺し」


再読なのだが。若い時分に一度読んだきりであって、結末は勿論はっきりと覚えてはいたけれども、そこに至る細部については全然でした。

この作品はポアロものとしては三番目の長編に当たるのだけれど、それまでの二長編といくつかの短編でもって、そろそろ読者にも馴染みが出来つつあったろうポアロとヘイスティングズの掛け合い、というスタイルがここでは見られない。そういう意味でも意欲作ではあるよね。

さて、根幹になるネタを知った状態で読んでみると、えっ!? と思うような、現代の作家なら絶対やらないだろう恐ろしく大胆な伏線が引いてあって、驚き。丸見えではないか。
また物語後半、ポアロが「ある男のことを考えてみましょう――ごくありふれた男です」と犯人でありうる人物の心理を分析するシーンは、真相を知って読むからこそどきどきさせられるな。

作品全体、ほのかにユーモアを漂わせてもいて、むしろ明るい雰囲気なのだけれど、それが犯人告発のシーンで一転。キリキリと息詰るサスペンスが素晴らしく、消去法によるポアロの推理はいつにも増して迫力があります。それまで小説内の誰かに向かって話していたのが、いきなり読者であるこちらを向いて指差された、そんな感覚すら覚えましたよ。

ところで『アクロイド殺し』、原題は "The Murder of Roger Ackroyd"。散文的というかセンスの感じられないネーミングだよね、これ。後のミステリ史には大きな影響を与えた作品であるけれど、発表された当時、何の予備知識もなくこの題名を見た人はどんな印象を持っただろう。
そして読み終わったあとには、この犯罪実話風のタイトルが実は必然だったことが分かるのだな。凄いね。

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