2011-09-03
エラリー・クイーン「ローマ帽子の謎」
エラリー・クイーン、1929年発表のデビュー作が新訳で出ました。
僕はクイーンの長編は全て読んでいるのだけれど、特に国名シリーズとドルリー・レーン物四作は何度も読み返しているので、内容は大体わかっています。が、翻訳が新たになればまた手を出してしまいますな。でもって「うーん、やっぱりいいな」とか独りごちるわけです。それがファンというものですから。
また、飯城勇三氏の労作『エラリー・クイーン・パーフェクト・ガイド』でも「基本的に『訳は古くて読みにくいが誤訳の少ない創元』、『訳は新しくて読みやすいが誤訳の多い早川』と言えます」と述べられていて、つまりは訳を新たにする余地はあるわけです、ええ。
『ローマ帽子の謎』は先行者であるヴァン・ダインを意識しながらも、推理の密度においては違うレベルを示した作品、ということであります。ただ、物語としては最初にひとつ事件が起こって、後は尋問・調査と推理がずっと繰り返されるというものであり、更には警察の捜査過程が結構、念入りに描写されているので、現在の読者からすれば展開がまどろっこしいかもしれません。けれど、この作品が発表された時代には、このオーソドックスさこそが力あるスタイルだったのだ、と思えるだけの熱意が文章から伝わってきますし、いきいきとしたクイーン警視の活動が存分に読めるのはファンにとっては愉しいものなのですよ。
ミステリとしては初期クイーンによく見られる、多数にのぼる容疑者に対して手掛かりが非常に少ないという設定であり、そこを極めてシンプルな推理でもって犯人を絞り込んでいく手法も既に確立されています(余詰めの消去にやや粗い点が残りますが)。
また、犯行現場にあるものではなく、無いものが鍵となるという趣向は、クイーンならではのテイストが充分に感じられるものです。
旧創元の井上訳よりストレスなく、面白く読めました。次作『フランス白粉の謎』は来年刊行予定だそうで。うむ。
しかしヴァン・ダインの新訳全集はどうなったのだろう・・・。
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