2011-09-23
アガサ・クリスティー 他「漂う提督」
『漂う提督』は英国の探偵作家の集まりである〈ディテクション・クラブ〉のメンバーにより書かれたリレー長編小説で、1931年に出版されたもの。
最近クリスティの作品を月イチくらいで、だいたい発表年代に沿って読んでいて、今回はその番外編のつもりでした。これまでは全部、早川書房の「クリスティー文庫」を新品で買っていたのだけれど、この作品は版元品切れが長い事続いているようで、中古で入手。そうして実際に手にしてみると、クリスティは少ししか書いておらず、肩透かしの感。
この作品、プロローグを担当したチェスタトンを除くと、12人の作家が参加しておりまして。クリスティの他、有名どころではセイヤーズ、クロフツ、バークリイ、近年になって我が国でも見直されているのがヘンリー・ウェイド、ジョン・ロード、ミルワード・ケネディ、ロナルド・ノックスあたりで、その他はあんまり良く知らないひとたち。
分量は各作家ばらばらで、一番多いのは80ページにわたる解決編を手がけたバークリイなんだけれど、その次がセイヤーズで、彼女は序文も書いてる力の入れようです。逆にエドガー・ジェプスンなどは7ページしかない。
さて、その出来栄えですが。
リレー小説なので各章によってキャラクターの印象が変わってしまうのは仕方が無いのかもしれないけれど、どうも他の作家の目を気にし過ぎたのか、既出の捜査結果をひっくり返して意外な展開を作っていることが多い。警部が「これは重要な手掛かりを掴んだぞ」と思っても次の章になると「あれはちゃんとしたものじゃなかった」なんて考え直すことがしばしばで、読んでいて混乱してくる。
それで、第八章においてノックス僧正がそれまでにさんざんかき回された事件の疑問点を整理して挙げていくのだが、その数なんと39。作家たちの不注意が原因である矛盾も含まれているであろう、これらの疑問全てに合うようなうまい説明をつけるのはちょっと無理でしょう。彼より後の部分の担当者たちがうんざりして「ノックスのやつは余計なことをしてくれる」と思ったとしても不思議は無いな。
そういう風なので、最後を引き受けたバークリイは相当苦労したのでは。自分の前までで全く収束に向かう気配がないのだし。それでもさすがバークリイ、意外な展開も交えつつなんとか解決はつけたものであるけれど、う~ん・・・。
あと、巻末には各作家たちによる、自分が担当した章までの材料を用いた推理の梗概が並べられていて、(中には穴だらけのものもありますが)『毒入りチョコレート事件』的な面白さも見て取れるか。
なんだかごちゃごちゃしていていて、独立した長編としてはいまひとつなのですが、ミステリのエッセンスみたいなものが濃縮されている作品ではあるかな。疲れました。
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