2011-10-09

アガサ・クリスティー「シタフォードの秘密」


1931年発表のノンシリーズ長編。書き出しがすばらしい。雪の山荘という典型的な舞台ではあるけれど、ほんのわずかな描写でその情景をはっきりと浮かびあがらせる手際は見事。
降霊術の最中に、霊によって殺人が起こったことが告げられる。そして実際、降霊術が行なわれていたまさにその時間に、距離を隔てた場所で事件が起こっていた、というお話。ディクスン・カーが好みそうな不気味な道具立てなのだけれど、後から特に怪奇ムードを盛り上げるわけでもなく、平明なフーダニットとして物語が進行するのはクリスティらしさか。

事件の指揮を取る警部は抜け目無く手堅いが、それだけではクリスティの作品にはならない。事実だけで無く、もっと入り込んだ人間関係を穿り出す探偵役がひとり必要。そう思っていると100ページちょっと過ぎたあたりで容疑者のフィアンセが登場。頭の回転が早く行動的という、女史の冒険物ではお馴染みの属性を持つヒロインです。

なんだか隠し事をしているような人物はいるのだけれど、はっきりした手掛かりが無いままで、厳密な証拠の検討もあまり見られず。キャラクターの魅力と何か企みがありそうだぞという雰囲気でもって物語は終盤まで引っ張られていきます。

突然明らかにされるメイントリックは、それだけ取ると現在ではやや古く見えるのは否めないか。ただ、以前に使ったアイディアを他のトリックでもって補強することで意外性を高める、という工夫が良いです。
そして、結果としてフーダニットらしさを守ることが実は一番の煙幕であった、という趣向は面白い。
年季の入ったミステリファンの方が楽しめるかもしれませんね、これは。

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