十二世紀の欧州を舞台にしたファンタジーと謎解き。
北海に浮かぶ孤島の領主が魔術の力によって斃されてしまう。準密室の現場、得体の知れない異教徒たち、呪われた不死の戦士、ゴーレム。
ミステリとしての骨格は不可解な事件が起こり、探偵役が調査・尋問を進めていく、というオーソドックスなもので、非常にわかりやすい。
一方で、異世界の設定はシンプルなものだけれど、それゆえ作り込みも充分。
キャラクターもはっきりし、文章も平明であって、二段組300ページ余をぐいぐいとドラマに乗せられるまま、まったく淀みなく読み進められます。
そうして辿り着いた終盤、ついに堂々たるフーダニットとしての姿を明らかにする場面にはぞくぞくさせられました。
魔術や呪いが有効である特殊設定下における謎解きなのであるけれど、どのように犯人を特定するか、という原則は物語半ばにおいてはっきりと示されていて、フェア。その上で、意外性に満ちたロジックが矢継ぎ早に展開されていく、その迫力たるや。当然のようにファンタジーの要素がミステリとしての必然に結びついているのも素晴らしい。
『インシテミル』が合わなかったひとも、これはいけるのでは。細部までしっかり練り込まれた力作ですな。
正直、米澤穂信がこれだけ太く、豊かな物語をものするとは思っていなかった、いやいや。
最後のパラグラフにはぐっと来たな。
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