2012-01-22

アガサ・クリスティー「死の猟犬」


幻想・怪奇短編集。英国での刊行は1933年であるが、収録作品は'20年代に書かれたものが中心になっているようです。
題材には精神感応や異常者、幽霊や降霊術などを扱ったものが多いですね。クリスティの純ミステリ作品においてミスティフィケーションとして使われるようなものも見られます。
また、怪奇的な設定ながらミステリ的なオチが付く話もいくつか混じっており、それがいいアクセントにはなっています。ただ、それらの作品を個々に見ると、ずばりと巧く決まったものもあれば、ミステリとしての趣向が見えみえで興ざめなものもあるかな。

クリスティの場合、幻想譚であっても現象の説明は具体的で平明なのが特徴で、判り易くはあるがその分、想像を拡げる余地が少ないように思う。全てを明らかにしすぎる、というか。描写よりプロット展開によって恐怖を呼び起こすものが主になっていますね。
そんな中、表題作「死の猟犬」は意外なほどに正統的な怪奇小説でした。読後に割り切れなさやもやもやしたものが残っている、というのが古典的で良かった。
あと、子供の幽霊を扱った「ランプ」がちょっとした作品なんだけれどレイ・ブラッドベリを思わせて気に入りました。

この短編集で唯一、幻想・怪奇色のない「検察側の証人」はツイストの効いた法廷物として、発表された当時には斬新だったのだろうな。最後の台詞から翻って全体の印象ががらり、と変わる趣向はお見事。

全体に、同時期に書かれたミステリ短編と比較するとフォーマットの縛りが緩いためか、語り口に余裕が在るようにも感じました。
ただ、ゴシック的なものを期待するとあてが外れるでしょう。むしろ「奇妙な味」を楽しむものかな。
どの短編も最後の一行の切れが良いのは流石。

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