2012-07-29

本格ミステリ作家クラブ 選・編「ベスト本格ミステリ2012」


夏の風物詩の本アンソロジーだが、あまり新刊チェックをしていないせいか、既に出ていたことに気付いていなかった。
今年は短編9、評論1作が収録。
以下、簡単で散漫な感想。


長岡弘樹「オンブタイ」・・・・・・交通事故により視力を失った男の一人称で語られる物語は、二転三転する展開で先が読めないもの。散りばめられた伏線は抜群に効いているが、それでも真相と作品世界の食い合わせは悪いように思う。

麻耶雄嵩「白きを見れば」・・・・・・入れ物は痛いアレだが、非常にオーソドックスなフーダニット。盲点を突いた逆転に唸りました。単純に謎解き小説として素晴らしい。

青井夏海「払ってください」・・・・・・いわゆる「日常の謎」なのだが、謎そのものが巧妙に隠されている。そして、指摘されてみて初めて術中に嵌っていたことがわかる結構が、地味ながらうまいなと。

東川篤哉「雀の森の異様な夜」・・・・・・ドタバタ劇に紛れているものの、かなりの難易度をクリアしている作品。一見、馬鹿馬鹿しいトリックから浮かび上がってくる情景も、実はカーっぽいような。

貴志祐介「密室劇場」・・・・・・密室殺人を扱った、防犯コンサルタントものの一編。ちょい無理筋なトリックを受け入れやすくするための、世界構築が丁寧になされているのは嬉しいところ。

柳公司「失楽園」・・・・・・スパイ組織「D機関」シリーズから、いかにもらしい作品。完成度は恐ろしく高いのだが、作品世界の洗練が過ぎて、展開が予想範囲に収まっているようでもある。

滝田務雄「不良品探偵」・・・・・・学校内での殺人を扱った倒叙もの。シンプルな犯罪計画が思いもよらない要素の介入によって崩れていく。しかし、この手掛かりはそこだけが浮いて見えてしまうな。

鳥飼否宇「死刑囚はなぜ殺される」・・・・・・刑の執行を翌日に控えた死刑囚が、密室状況で殺害される。しかも二人も。タイトルが示す大きなホワイ? は大胆な手掛かりによって解かれていく。いかにも本格ミステリ、という一作であります。

辻真先「轢かれる」・・・・・・亡くなった母親は、生まれたばかりの頃の自分を殺そうとしたのだろうか? 辛気臭い話だなあ、と思って読み進めていたが、やがて非常にミステリらしい趣向が明らかに(うまくいっているかは別として)。

巽昌章「東西『覗き』くらべ」・・・・・・評論。和洋のミステリ、その質感の違いを「視線」のあり方から解き起こしてみるというもの。笠井潔っぽい。


どれも良く作られたものばかりなのだけど、個人的に好みな作品が少ない。もう僕は読まなくてもいいか(と、ここ数年ずっと思っているのだが)。

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