2013-03-20

アガサ・クリスティー「死との約束」


1938年発表、中東を舞台にしたエルキュール・ポアロもの。この頃、米国ではエラリー・クイーンもハリウッドものを出していて、英米でともに謎解き中心の物語をそれまでとは違う背景に組み込むような試みがなされていたんですなあ。

二部構成になっていて、第一部では強烈な支配欲を持つ未亡人と、内心は彼女を憎みながらも恐怖によって従順にならざるを得ないその子供たちが描かれ、一家での旅行先において殺意が育っていきます。そしてとうとう事件が起こる。
登場人物たちの精神のありかたを心理学者が解説するシーンが盛り込まれているのだけれど、時代でしょうか。今読むといささか型どおりな感は否めませんが。

第二部になって、現地の責任者の要望によりポアロが出馬します。過去のある作品を思わせる状況――皆が犯人が誰かを知っており、なおかつそれをかばっている――のようである。そして、ポアロは一日で事件を解決してみせる、と宣言する。

異国を舞台にしていることを除くと、夾雑物を配したフーダニットとして恐ろしく良く出来ていて、出来過ぎてかえって面白みがないかも。ポアロは関係者たちに聴取をしただけで、あまり悩むことも無く事件の解決に至ってしまうのだから。
盲点を射抜くような真相は計画犯罪としては危なっかしいが、こうでしか説明がつかないというもの。ちょっとした伏線が心憎い。わかっていても引っ掛かるミスリードもいつも通りで、オーソドックスなクリスティ流、それが生なかたちで提出されているようである。

ミステリとしての結構は同じ中東ものの『メソポタミヤの殺人』『ナイルに死す』よりいいと思いますが、第二部では殆ど異国という雰囲気を感じさせませんし、小説としていささかあっさりですかね。クリスティとしては水準作というところ。

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