2013-06-22

ピーター・ディキンスン「生ける屍」


薬品会社に勤める科学者フォックスは、カリブ海の島に出向を命じられる。そこでは、はっきりと口に出すことは禁じられてはいるが魔術が信仰されている上、権力者は秘密警察を用いた独裁政治を強いていた。さらに、会社がフォックスに命じていた実験にも隠された目的があることが判明する。不愉快な状況に反発し、島から逃げ出そうとしたフォックスだが・・・。

真面目で融通の利かない主人公が不条理・悪夢的な世界に巻き込まれていくという、いかにも英国人が好きそうなお話です。設定にはSF的な要素も感じられるし、謀略小説風な展開もあります。

翻訳はサンリオ版と同じなのだろうか、主述の対応などわかりにくいところが多く、ちょい固め。それに負けずに読み続けていくと、中盤あたりからそれまで状況に翻弄されっぱなしだったフォックスが逆襲に打って出て、俄然娯楽小説らしくなってくる。
一方で、自然科学と魔術の対立、というのがひとつ大きなテーマとしてあるのだけれど、その境界をいつのまにか踏み越えていく展開がまるでラテンアメリカ小説を思わせます。

全編オフビートのようであり、なおかつ語り口は落ち着いていて、英国小説好きなら楽しめる作品でしょう。ただ、ジャンルにこだわるような読者には向いていないか。

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