2013-07-28
エラリー・クイーン「オランダ靴の謎」
突然、ふたりの間に生まれた意思の火花が、以心伝心、いなずまのごとく空間を走り抜けた。警視の顔に、それは飛びこんできた――叡智と、驚嘆と、決断が。一瞬で、そのすべてがほぼ消え去ったあとには、真一文字にくちびるを引き結び、皺の寄った険しい顔が残った。
年一冊ペースで刊行されている創元社からの新訳国名シリーズ、その第三弾です。一方、同シリーズが角川文庫からは相手を変えながらの共訳という荒業でもって、三ヶ月に一作というハイペースで出されています。よっぽど後発の角川に乗り換えようか、と思ったのだけれど、よく考えたら僕は全部読んだことのある作品なので、急ぐ必要は無いのでした(*)。
まあ、それはともかく。
今作『オランダ靴の謎』は、デビュー作『ローマ帽子の謎』や続く『フランス白粉の謎』より、事件の設定そのものが捻りのあるものになっていて、純粋な謎解き小説としてならこれがベストなのかな、という気はします。
時系列的には『ローマ帽子の謎』より前に起こった事件らしいのですが、前二作では事件が発生してから、警視に伴ってエラリーが現場に出動していたのに対して、今作は発端からしてちょっとした工夫が感じられます。
あと「幕間」の章があって。これは別に普通にストーリーの中に組み込んでも何ら問題は無いようにも思うのですが。ページ下に余白があるだけで微妙に作品との距離感が狂うような気がして、遊戯性を強く意識させる仕掛けですな。
勿論、些細な手掛かりから一気に容疑者を絞り込むところが最大の見所なのだけれど、個人的には何度も読み返している作品なので、今回はなぜ犯人は殺害方法にこだわったのか、という理由に感心しました。
次作『ギリシア棺の謎』は当然のように2014年刊行予定、ということなので、また来年。
(*)角川のはどうもカバーイラストが趣味に合わないのだなあ。もっというと、80年ほど前に書かれた小説を、そんなに平易にしなきゃいけないかな、という疑問があって。同時代、我が国だと昭和初期に日本語で書かれた探偵小説ですら、今となってはそれほど親しみやすい文章ではないだろうという気持ちがあるのですね。英語表現は日本語ほど大きく変化していないのかもしれないけれどさ。
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