2014-06-02

パトリック・クェンティン「女郎蜘蛛」


クェンティンのピーター&アイリス・ダルース夫妻シリーズというのは、窮地に巻き込まれたピーターがなんとかそこから脱する為に事件の謎を解く、というのが基本的な設定であって。純粋に謎解きだけ、もしくはサスペンスだけを取り出してみると中途半端ということになりかねない。両者の相乗効果が魅力となっているのですね。
本作『女郎蜘蛛』はプロットが単純化されていて、そういった構造が非常にわかり易い。


妻であるアイリスが海外にいる間に、ピーター・ダルースは作家志望の娘ナニーと知り合う。その境遇に対する同情も手伝って、自分が仕事に出ている時間は自由に使っていい、と彼女にアパートの鍵を渡してしまいます。数週間後、帰国したアイリスとともにアパートに戻ると、寝室にナニーの死体が。

ピーターはせめてアイリスの信用だけは失いたくないと思い、独自に事態の収拾に動き出すのものの、どんどん状況は悪化していきます。その過程で、実はナニーが思ってもみなかったような人間だったことが明らかになっていくのですが、これがピーター自身にしか理解できず、誰にも共感されないために、精神的にも孤立していきます。
後半に入り、ついには殺人事件の犯人として逮捕されるのも時間の問題となって、ピーターが腹をくくって動き出すと、次々に情報が繋がっていく。ここら辺りの展開は結構ご都合主義なのですが、それによって事件の様相そのものが次々に変化していくので、白けずに引き込まれていく。

結末近くになると、この作家ならではの盛り上がりが待っております。特に凄いトリックなどないのですが、真相やそこに至る手掛かりが非常に効果的なタイミングで提示されるのですな。人物の出し入れもオーソドックスなんだけれど巧いね。

人間性の謎を扱いながら冗長にならず、実に締まった仕上がり。凄い傑作、なんて思いませんが、存分に愉しめました。

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