2014-06-23

広瀬正「マイナス・ゼロ」


1970年の、実に楽しいSF。

タイムマシンによって昭和38年から20年前の世界に飛ばされてしまう男の奮闘が物語の中心を占めている作品なんですが。戦時中における東京の風俗を生活感豊かに描き出すことによって、優れた歴史小説にもなっているのですね。
主人公は自分の持っている未来の知識でもって、なんとか事態に対応するのだけれど、異なる時代に属する人間、その意識のすれ違いが生み出すユーモアが大らかで、またいい。

さすがに古い作品なので、SFとしての展開はある程度読めてしまえるのだが、それが瑕疵になっていないように思います。逆にノスタルジックな世界観と相まり、予想通りに進んでいくのが心地いい。時代設定だけでなく、物語としての太さが一種のなつかしさを感じさせてくれる。

終盤に入ると一気に様相が変わりますね。SF魂爆発というか、この解決はなかなか異物感がありますな。う~ん、古典だねえ。

幸せな気分になれる作品ですな。
例えばミステリだと天藤真の『大誘拐』のような。いい娯楽小説を読んだ、という感じがしました。

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