2014-06-15

アガサ・クリスティー「ホロー荘の殺人」


アンカテル夫妻の住むホロー荘、そこには何人かの親類縁者が訪れていた。そして、近くに別荘を借りていたエルキュール・ポアロも昼食の招待を受ける。ホロー荘の中庭に案内されたポアロ、その目の前には血を流して倒れている男と、拳銃を持って呆然とする女が。

1946年発表、エルキュール・ポアロものとしては4年ぶりの長編。原題の "The Hollow" は事件の舞台となる邸宅の名であり、同時に「(精神的な)うつろさ」という作品のキーワードでもあります。
事件に至るまでの人々の心理を書き込むことがミステリとしての仕掛けに繋がっていたのがこの時期のクリスティ長編ですが、この作品では結構早い段階で事件が起こる。そして、犯人は明らかなように見えたのだが、決め手が無い。
やがて中盤に至り、事件の様相をひっくり返すような証拠が挙がってくるのだが。

この作品、中期エラリー・クイーンと共通するセンスがそこかしこから感じられるのだな。まず、大まかなプロットの流れがそうだし。死にかけている男が一番生きいきとしていて、その他の人物はどこかうつろである、という倒錯や、凶器を巡る奇妙な謎(クリスティは物証に関する議論はあまりがっちりとはやらないけれど)。何より、ルーシー・アンカテルというキャラクターが凄くクイーン的だ。

正直なところ、謎解き小説としてはやや物足りないかも。意外性の演出はあるものの伏線の妙は控えめ。ポアロの存在もうまく生きていないようで、ちょっと精彩に欠けるよう。
一方で、人間性をしっかりと掘り下げることで、よく出来たドラマにはなっていると思います。事件が解決し、ポアロが退場した後の章がこれまでのクリスティにはなかったような展開を見せ、感動的です。

死と生を見事に照らし出した、意欲的なミステリだ(と言い切ってみよう)。

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