2014-11-24

アガサ・クリスティー「愛の探偵たち」


しかし、凄いタイトルだな。いい歳のおっさんとしては、こっ恥ずかしい。
オムニバス短編集で、1948年のノンシリーズ中編「三匹の盲目のねずみ」と七つの短編を収録。


「三匹の盲目のねずみ」 元々はラジオドラマとして書かれたものを小説化した作品だそう。そのせいか内面描写は控えめで、テンポ良く進んでいく。雪に閉ざされた山荘が舞台で、かつマザー・グースものですが、舞台設定やキャラクターには時代に合わせたアレンジが感じられます。ミステリとしては雰囲気の醸成がうまいのだけれど、伏線は少なめ。わかりやすいツイストを伴ったスリラー、というところでしょうか。

続いて、'40年代前半に発表されたジェーン・マープルもの。
「奇妙な冗談」 ストランド誌に発表したものとしては最後の短編だそう。財産の変わった隠し方、いってみればそれだけなんですが。お話のもって行き方はいかにも手馴れている。
「昔ながらの殺人事件」 オーソドックスなフーダニットなのだけれど、どうもこの作品ではそこに主眼はないような気もする。というのも、原題がそのまま真相を示しているのだ。解決編で浮かび上がってくる犯行シーンは印象的なものであって、そこを書きたかったのでは。
「申し分のないメイド」 ちょっとシャーロック・ホームズ譚を思わせる(タイトルもそうかな)、手の込んだ犯罪。気の利いた誤導があるのだけれど、それほど効果が上がっていないようでもある。それにしてもマープルは勘が良すぎ。
「管理人事件」 作中作による犯人当て、という趣向。でも、それだけかも。手掛かりも弱い。
四作とも凄く読みやすいし、そこそこは面白いんですが、謎解きの興趣はやや薄め。

次は'20年代後半に発表されたエルキュール・ポアロものがふたつ。
「四階のフラット」 導入が魅力的。細かい伏線もあって、読み終えてみればしっかり計算された作品だということがわかります。
「ジョニー・ウェイバリーの冒険」 予告状を何度も出した上での誘拐。意外な犯罪計画が楽しいし、ヘイスティングズも出てきます。
どちらの作品も第一短編集『ポアロ登場』に収められたものと比べると出来が良いですね。

最後は'26年に発表されたハーリ・クィンものです。
「愛の探偵たち」 この作品の設定は後のある長編でも使われていますね。クィンものとしてはファンタスティックな味はあまりない、手堅いミステリになっています。
並べて読むと、短編として一番まとまりがいいのがこれかな。


全体にひどいものはないけれど、突出したものもない、という感じの一冊でした。
ただ、短編集『火曜クラブ』を除くとマープルが登場する短編というのは七つしかないので、そのうち四作が読めるのは貴重かと。
いずれにしてもファン向けでしょうか。

0 件のコメント:

コメントを投稿