2015-06-13

ジェイムズ・ヤッフェ「ママは何でも知っている」


これも相当な昔、ポケミスで読んだことがあるか。日本独自に編まれた短編集でありまして、米国で同じような内容のものが出されたのはずっと後年になってからのようです。

刑事である息子から、そのとき抱えている事件の話を聞いただけで、母親が真相を言い当てて見せるという短編が八作。それぞれが発表されたのは最初の五作が1952~55年で、残りが十年以上後である1966~68年とのこと。
安楽椅子探偵ものの古典であり、都筑道夫はこの〈ブロンクスのママ〉のスタイルを『退職刑事』のヒントにした、と書いていたと思う。

全体に軽快でユーモアを感じさせる語りの中、コンパクトにまとめられたフェアな謎解きが楽しめます。人間性に基づくロジックにはクリスティのものをさらに押し進めたような感覚もあるかな。これは容疑者のキャラクターについて(典型ではあるが)わかりやすく丁寧に書かれているからこそ成立しているのだろう。

純粋にミステリとしてみると表題作「ママは何でも知っている」の手掛かりの鮮やかさが目を引く。これなんていかにもエラリー・クイーン好み、という感じ。
また「ママの春」での、意外性のある真相をうまく収めた手際も巧い。安楽椅子探偵ものではあまり事件の構図をややこしくしてしまうと、推理が妄想に近づいていって説得力が薄れてしまうのだが、ところを得た伏線のおかげで綺麗な仕上がりを感じさせてくれます。
他では「ママは祈る」はアイディアだけ取ればチェスタトン的、ともいえそうなのだが、それが物語に自然に溶け込んでいるのに感心。人間性が浮かび上がってくる結末近くの台詞にも虚を衝かれるようだ。「ママ、アリアを歌う」もまた、特定のコミュニティにおける特有のロジックを扱いながら、抵抗なく飲み込めるものになっているのが何気にすごい。

特段にトリッキーなものはないのですが、謎解きを引き立たせるプレゼンテーションが素晴らしいし、人間を書き込むことがミステリとしての面白さに結びついている好例かと。

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