エルキュール・ポアロの秘書であるミス・レモンは普段、機械のように冷静かつ有能なのだが、今日はつまらないミスがあった。何事かを気にかけているようで、聞けばミス・レモンの姉が働いている学生寮で盗難が相次いでいるのだという。その盗まれるものというのが電球や塩、着古したズボンといった金銭的な価値のあまりないものばかりというから奇妙だ。興味を引かれたポアロは調査に乗り出す。
1955年発表のポアロもの長編。
珍しくミス・レモンの出番が多いし、ポアロがホームズ譚の「六つのナポレオン像」に触れたり、過去の事件に対する言及があるのもファン・サーヴィスだろうか。
明るく、ユーモアを交えた筆致でテンポよくお話は進んでいくのだが。
正直、ミステリとしては締まりがない。中途の興味を繋ぐためか絵解きが小出しにされているため、最後の推理が小粒に感じられてしまう。盗難の謎に対する解答もお座なりだよなあ。
さらに、本作に限ってはキャラクターの書き分けがあまりよくないため、フーダニットとしての興味がいまひとつ掻き立てられにくい。おかげで、大胆なトリックもあるのに、十全な効果があがっていないのだ。
スリラー系作品のアイディアを謎解き小説に転用したのかな。安易というか、作品としての緊密さが感じられませんでした。
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