2015-09-06
アガサ・クリスティー「ブラック・コーヒー」
戯曲2作を収録。
「ブラック・コーヒー」は1930年に発表したエルキュール・ポアロもので、クリスティ自身が手掛けた脚本としては初めての作品だそう。
ある科学者が研究の成果を盗まれることを恐れ、ポアロに調査を依頼する。だが、ポアロが屋敷に到着したときには、すでにその主は死亡していた。というお話。
いかにも舞台らしいと思えるのは、暗転している間に何かが起こるという趣向。あと、色んな人物が大した理由もなく、疑わしそうな動きをするところがあるね。
ミステリとしては毒殺を扱ったものだが、その機会を持った人物はきわめて限られているため、犯人の設定にはあまり驚きを生み出す余地はなさそう。
ただし、犯行の動機から展開されるロジックには面白いところがあって、この部分はむしろじっくりと消化することができる小説向きではないかしら。
ともあれ、ヘイスティングズとジャップというレギュラーも登場して、そこそこ楽しめました。
なお、クリスティはこれ以外にポアロが登場する戯曲を書いていないそうで、オーソドックスなパズラーは芝居にはあまり向いていない、ということでしょうか。
もうひとつの「評決」はだいぶ離れて1958年の作品。こちらにはシリーズキャラクターは出てきません。
犯罪が行われますがミステリではなく、観念的なメロドラマという感じ。プロット上のツイストは用意されてはいるものの、人間関係の動きを中心に据えてあって、雰囲気も重い(もっと皮肉なテイストを強調すれば、いわゆる「奇妙な味」になりそうなお話なのですが)。
正直、娯楽性はあまり高くはないかな。
対照的な2作品でしたが。合わせ技で一本、には少し足りないか。
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