2015-09-22

大山誠一郎「赤い博物館」


なぜか閑職についているキャリア女性警官が迷宮入りした事件を割りに簡単に解決してしまうという、連作ミステリ。よく判らない設定だが、昔の捜査技術には限界があった、あるいは綿密な再調査をしようにも時間が経ちすぎていている、というハンディを利用することで、問題をシンプルなものにしているようだ。
なお、警察小説の形をとってはいるが、例によってリアリティはない。それなのに生臭いドラマを乗っけようとするから、上滑りのすること。


「パンの身代金」 一発目のこれでちょっとつまづいた。小説としてだけでなくミステリとしても相当に、いかがなものかと思うところがある。しかし、この作者は減点法で採点するとダメダメなのはいつものことだ。久しぶりに読んだので面食らったが。
思いもよらないトリッキーな構図と、しかし全くそれを支えきれていないゆるゆるなディテイルのアナーキーさが痛快。まあでも、この真相はしっかり捜査されたらバレるよね。

「復讐日記」 手記を使った構成が興味を引っ張るミステリ。凄く複雑な犯罪ではありますが、手掛かりがとても良く出来ているし、二段構えの推理も鮮やかに決まった。
あと、掃除のおばさんの記憶力が凄すぎ。

「死が共犯者を別つまで」 謎の導入が相当にお粗末なものの、交換殺人の共犯者を探る、というひとひねりした設定は魅力的です。
推理のほうは発端がいささか強引だが、そこから展開される光景が素晴らしい。作品冒頭でのちょっとした引っ掛かりが生きてくるのもいい。

「炎」 30ページちょっとと、今回では一番短い作品。そのためか、推理の根拠は薄弱といっていいものだ。殺人方法を巡るロジックは冴えているけれど。まあ、このサイズの短編ならありかな。

「死に至る問い」 26年の時を経て全く同じ状況で殺人が起こった、という奇妙な謎はなかなか好みです。
しかし、ハウダニットと同じ調子でホワイダニットをいじった結果、真相の説得力がなくなってしまったように思う。発想は確かに凄いんだけれど。


前作『密室蒐集家』が、まず意外な結論を叩き付けてから、そこに至った推理を展開していたのに対して、今作品では状況の腑に落ちない部分から推理を展開していき、その末に真相を開示、という作りになっている。つまり、着想よりもまずロジックに目を行くようになっているのだが、それにしてはあまりに粗すぎるのだ。やはり、はったりをかましてその勢いで押していく方が、この作者には合っていると思う。
凄く面白かったのだけれどね。

0 件のコメント:

コメントを投稿