2015-09-23

ヘレン・マクロイ「あなたは誰?」


「ウィロウ・スプリングには行くな。君はあそこじゃ邪魔者なんだ」
匿名の電話による警告にもかかわらず、婚約者の実家へと向かったフリーダ。だが、そこでも再び不安を掻き立てる電話があり、彼女の部屋が何者かに荒らされる事件も。そして、ついには殺人が。


1942年発表になる、初期のベイジル・ウィリングもの。
ウィリングは「地方検事局の顧問」であり「犯罪捜査に心理学を応用したアメリカで最初の精神科医」と紹介されています。

作品自体が全篇、非常に心理学的な要素が強いものであり、それがトリッキーなプロットとも密接に絡み合っています。
それでいて、終盤には正統的な謎解きの展開が待っているのだから嬉しい。もう残り60ページくらいしかないところで、ウィリングは言う。
「皆さんの中の一人がそうなのです。しかし、誰なのかは私にも分からない」

真相は一捻りあるもので、振り返ってみれば犯人ではない登場人物の心理描写にも細心の注意が払われていたことに気付きます。また、ミスリードも手が込んでいて。特にミステリを読み慣れた人ほど、アンフェア気味な飛び道具の可能性を疑うんじゃないかな。

独創的かつ、とても力のこもったパズラーだと思いましたよ。本当、近年に訳出されているマクロイ作品には外れがないですね。
なお、巻末の訳者による解説は非常に熱の感じられるものですが、他作家による有名作品の仕掛けを割ってしまってもいるので、若い人は注意したほうがいいかも。

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