2015-10-14
有栖川有栖「鍵の掛かった男」
有栖川有栖の書き下ろし新作は、火村英生を探偵役に据えたものとしては今までで一番長い作品です。
最初に手にした感じではそんなに量があるようには思えなかったのだけれど、使われている紙が薄いのですね。しっかり500ページ以上あります。
知人が亡くなったのだが、自殺として処理されたことに納得がいかないので再調査してくれないか、という依頼をアリスが受ける。火村は大学での仕事が忙しく、電話で進捗を連絡することはあるものの、物語の前半はアリスの単独行で進みます。
故人は自分の過去については秘密にしていたようで、それを掘り返していくのに多くが費やされていく。その聞き込みを中心にした調査は私立探偵小説風だ。一方で、対象になる事件については公的には既に片付いていることや、その根が過去にあるということからはクリスティっぽいテイストを感じます。
果たして死んだ男はどういった人間だったのか。それがじわじわと明らかになっていく過程は地味ながらもスリリング。しかし、自殺という見解を覆す手掛かりがなかなか見えてこない。
現在の事件についての本格的な検証は物語後半、火村が登場してからになる。謎解きの興味が一気に強くなり、進展のギアが上がったという感じで、それまでとの対比も鮮やか。
問題となる人物の正体にはある程度見当がつくかもしれない(途中まで僕は違う可能性を考えていました。本人が名乗っていたのとは全くの別人がなりすましていたというそれです)。しかし、フーダニットとしては本当に取っ掛かりがないように思えるのだ。
最後の最後になって、非常に控えめなかたちではあるけれど〈読者への挑戦〉が登場。そして、シンプルな手掛かりから導き出される意表を付いたロジックが、犯人をダイレクトに指し示す。
徐々に解かれる謎と一気に解かれる謎、その絡み方がとてもいい。
奥行きが感じられ、読み応えのあるミステリでした。
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